男女混合競技の恐怖 〜side 音葉
『続いての競技は男女混合二人三脚リレーになります』
そんなアナウンスと共に私は歌織さんの方を見た。
「歌織さん、確かこれって碧が出るやつですよね?」
「うん、アンカーだって言ってた。カッコいい姿見せてくれるといいわね」
私はそんな歌織さんの言葉に小さく頷いた。
それにしても体育祭は賑やかだ。
私が小学生の頃も運動会をした覚えがあったけど、ここまでの活気はなかった。
この場にいるだけで暑さも忘れて楽しんでしまう自分がいる。
「音ちゃん、念の為に言っておくけど、興奮して叫んだりしたらダメだからね」
歌織さんは私に対して注意をしてくる。
これで今日何度目だろうか……
「もう、分かってますってば。歌織さん私を幼稚園児か何かと勘違いしてないですか?」
見た目は私の方が歳上なのに……
「音ちゃん?」
私がそんなことを思った途端、歌織さんからただならぬ気配を感じた。歌織さん見た目のことに関してはホント敏感だよね……
それから少し派手目な音楽が流れたかと思うと、この競技の参加者達がグラウンドの中央まで駆け足で出てくる。
えーと、碧は……いたいた。
アンカーって聞いてたからやっぱり後ろの方だったんだ。
それで隣にいるギャルっぽい人が碧のペアの人……
うわぁ、なんていうか碧とは真逆のオーラが出てる気がする。
そんな人と一緒で大丈夫かな……
「あれ、あの子どっかで見たことがあるような……」
いろいろと思案している私の隣で歌織さんがボソリと呟いていた。
そして、いよいよレースが始まる。
「いちについて、よーい、」 パンッ!!
強烈な発砲音と共に競技者たちが一斉に走り出した。
確か碧のクラスは青色だったよね。青は……やった2番目じゃん!
5チームあるうちの2番目、これはなかなかいい滑り出しだと思う。
あとは何処かの機会で碧が一番になってくれたら。
しかし、そんな想いは束の間のことで第二走者にバトンが渡って直ぐに3位に転落してしまう。
あ〜、もう何やってんのよぉ。
続いての第三走者に期待を寄せたが、1位どころか2位のチームとの距離も縮まらない。
そんな時、碧がコース上に出て来た。
そして隣にいる派手な髪の女性と……
「なっ!」
「音ちゃん、どうしたの!?」
えっ、今更気づいたんだけど、ちょっと男女の距離感近すぎない!?
そしてゴムに足を通した後にはお互いに腰の下に手を回し始めたではないか!
「ちょ、ちょっと、歌織さん。碧、あの女とくっつき過ぎじゃないですか」
「そうかなぁ、全然普通だと思うけど」
歌織さんはニヤニヤした表情でこちらを見てくる。
いや、普通じゃない。あんなの恋人ぐらいの距離感だ。
あれ、恋人ぐらいってどのくらいだろう?
じゃなくて問題は近いんだって……
もっと、離れろー。
って、何思ってんのよ……碧達は真剣に取り組んでるだけで何も悪くはないはず。
なのに、私は何故だかヤキモキしていた。あの二人の間に割り込みたいそんな訳の分からない衝動に駆られていた。
そして、ついに碧のもとへとバトンが渡される。
違う違う、気持ち切り替えなきゃ、今は勝負の真っ最中なんだから。
碧、がんばって!!
「碧、ガンバ!!」
するとまたしても、私の思考を遮る出来事が起きた。
観客席の方から碧の名前を叫ぶ女性の姿が見えたのだ。
帽子とマスクをしていて顔は見えにくいが、私の経験と雰囲気から彼女が相当な美人であることが伺えた。
誰なのよあの人?
私、こんな話聞いてないんだけど……
始まる前とは違って、既に私の心の中は荒んでいた。
そんな時、歓声が上がった。
なんとか気持ちを保ってレースの方を見ると、たった今、碧とついでの女が2位だったグループを追い抜いたのだ。
そして、そのままの勢いで1位のグループまで抜かしてしまったのだった。
凄い……碧、滅茶苦茶速いじゃん!
会場が大きな歓声に包まれるそんな中、碧達は盛大に転んでいた。
フフフッ、やっぱり碧って肝心なところが抜けてるんだよね……でも、すごくカッコよかった。
しかし次の瞬間、私は再び現実に戻された。
碧と一緒に走っていた女性がハイタッチを交わしたのだ。
その姿が本当に凄く楽しそうで、何だか胸がとても痛くなった。
もう、なんなのよこの気持ちは……
嬉しいのに辛い。私は複雑な気持ちで二人の姿を遠くから見つめていた。




