天音 雪の日常 その① 〜side 雪
人間は孤独に弱い。
これは疑いようのない事実だと思う。
中には強がって一人の方が良いと言う人もいるかもしれない。でも、結局は心の中で誰かを探してるはずだ。
拠り所を求め神を崇め、また拠り所を求め家族を作る。
それは例え実際に顔を合わせていなかったとしても、SNSで知り合った人、オンラインゲームで知り合った人、そんなふうに気がつけば様々な形で群れている。
かくいう私も一人ぼっちは嫌だ。
ただ、今はプライベートにおいてはという言葉が正しいのかもしれない。
学校では男子からは下品な目で見られ、女子からは嫉妬の眼差しを向けられる。
はっきり言って誰かと群れる気になんてなれなかった。
だから、入学してから一年以上経過した今でも友達と呼べる存在は未だに一人もいないし、その候補もいない。
でも、別にそれで良かった。面倒ごとが増えるくらいなら学校では私1人で十分なのだ。
しかしそれが、最近になって本当に面倒なことが増えてきた。
特に今のクラスはホントに最悪で面倒臭い。
ことの発端は2年にあがってすぐのことだった。
私は運動が得意だ。勉強も出来る。そして見た目もそれなりだということは自覚している。
これは決して自惚れなんかじゃなくて、単に事実を述べたまでのこと。
そんな私であるからこそ、1年の頃から有名だった男子生徒、小藤 明宏に目をつけられた。
この小藤という男、確かに二大イケメンと称されることだけはあって、顔はかなり良いものを持っていた。
女子から黄色い声を沢山浴びせられるであろうことも容易に想像はつく。
でも私からすると、ただ顔の整っているチャラ男、とその程度の人間だった。
寧ろいろんな女子に手を出している、そんな噂もあって正直嫌いな部類に属している。
だからこそ関わりたくないその一心で私は彼の話を適当にあしらった。
そして、これが私の愛する静かな日常が崩れた瞬間だった。
小藤を好いていた女子達からは疎まれる存在に、またその中にはクラスの中心人物の多かったこともあってその流れで私を避ける人も出てきた。
1番の面倒なのは小藤自身だ。私が歩いてるところに急に足を出してきたりと、何かとちょっかいを出して来るようになった。もちろん、持ち前の運動能力で全て回避には成功しているが、本当に鬱陶しい……
プライドがやたらと高く粘着質なこの男の何処がそんなにいいのか私には分からない。
女って男の顔さえ良ければなんでもいいのかしらね?
そして、そんな面倒な日々が続く中で私はある人のことが少し気になった。
その人物とは律真 碧、私と同じクラスの陰の薄いクラスメイトだ。
正直、初めはそんな人居たの?、っていうレベルだった。
でも、クラスメイト達のうざったい視線に混じって少し変わった視線を送ってきていたので、いつの間にか名前を覚えてしまったのだ。
しかも、最近分かったのだが、あの阿契 斗真と仲が良いかもしれないということ。
下の名前で呼んだり、毎日一緒のタイミングで教室にきたりと、いろいろと疑わしい。
でも、教室で喋りかける姿は殆ど見られないのは少し不思議だった。
まぁ、阿契君の周りに集まる生徒達は皆キラキラしてるタイプだから、静かめの彼には合わなかっただけかもしれないけど……
でも、恐らくはきっと、私と同じように面倒ごとが嫌いなタイプなのだろう。
「天音さん、今日の放課後私たちと一緒に遊ばない?」
それは、とある日の小藤ファンクラブに属している女子からの誘いだった。
もちろん、その言葉は単に友達としての話ではないことは分かってる。
何をされるか分かったもんじゃない。
ホントに煩わしい。
今までは静かだったのに、最近はこういう機会がちょくちょく増えてきた。
それに比べて同じクラスの彼の周りは常に静まりきっている。
最早教室にいないもの、空気同然として扱われている。
私にはそんな彼が羨ましいと感じてしまう。
ちなみに言っておくが、これは別に彼をディスってるつもりはない。普通に羨ましいだけなのだ。
陰の薄い彼が時より私に向けてくる視線は普段、男子から向けられるねっとりしたものとは違った。
そう、どちらかと言うと私を憐れむような、そんな感じだ。
「うん?、いっぺんしばいたろか?」
おっと、はしたない……
ついつい熱くなってしまった。
でも、私が彼に憐れられなければいけないことなんて何処にもない。
それなのにあの視線はちょっぴり腹が立った。
そんな嫌で仕方ない学校生活を淡々と過ごせるのにはちゃんとした理由がある。
そう、それは充実したプライベートが待っているからだ。
私には大きな夢がある。
それは人々に夢を与えられるトップモデルになること。
小さい頃に私に夢を見させてくれたように、今度は私がその憧れられる立場になりたいと、今日まで必死にその夢を追いかけてきた。
ファッションショーにも出たいし、有名な雑誌の表紙も飾ってみたい。
まぁ、現実はそんかに甘くはないんだけどね……
一応、今でも少しだけモデルの仕事をやらせて貰っていた。
そこまで有名じゃないけど、ちゃんとしたファッション誌のバイトだ。
私が載れるのはそのファッション誌の表紙、とかではなく数あるページの中のほんのひとコマだけだ。
もちろん、それでも嬉しいし、誇りを持ってやらせて貰っている。
が、私の目標にはまだまだ遠そうだ。
そして、そんな私には憧れの先輩がいた。
右も左も分からない私に、このモデル業界のことを教えてくれた人で、その人がいなかったらこうして今、バイトにもありつけていなかっただろう。
その先輩はたった今私の前で、かの有名雑誌の写真撮影でカメラに向かってポージングしているところ。
もちろん彼女が今月の表紙を飾る予定だ。
ヤバっ、めっちゃ可愛いやん!
彼女の名前はレイナさん、まさにモデルの中のモデルの人。
優しくて、スタイル良くて、可愛くて、かっこいい、もう非の打ち所がない完璧な人だ。
ちなみに、本名とかは教えて貰ってないけど、連絡先は交換してもらっている。
交換してもらえた時はマジで興奮し過ぎて、少しくらっときてしまったのは内緒の話だ。
ああ、私もいつかはレイナさんみたいになりたい。
そんな可愛すぎるレイナさんの仕事っぷりを夢中で見ていたらいつの間にか数時間が経過していた。
「お疲れ様でした」
「レイナちゃん、今日も最高だったよ。また今度も宜しくね」
「はい、ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いします!」
仕事を終えた彼女は礼儀正しく、関係者の方々に挨拶してまわると、ついには私の方へとやってきた。
「お待たせ、ユキちゃん。遅くなっちゃってゴメンね」
「い、いえ、大丈夫です。それより今日も完璧でした!」
なんなら明日の朝まででも待ちます、というより待たせて下さい。
「完璧って、大袈裟な。……でもありがと、こういう仕事やってると時々、自信を失いそうになることもあるから、そう言ってくれる人がいるだけで気持ちがだいぶ楽になるわ」
「ホントに大袈裟なんかじゃないです!レイナさんはいつも私の憧れです!」
「ふふっ、可愛いこと言ってくれるじゃないの。この後、空いてる?
もしよかったらご飯でもどう?」
「はい滅茶苦茶暇です、是非お願いします」
空いてなくても無理矢理空けます。と心の中で密かに叫んだ。ヤバイめっちゃ嬉しいんだけど、まさかあのレイナさんにご飯誘ってもらえるなんて……




