本物にアドバイスを求めたら
東雲との練習の後、疲れ果てた俺は家に帰ってシャワーを軽く浴びた後、ベッドの上で寝転んでいた。
別にまだ眠るつもりはない。
ただ少し、今日の失敗を振り返っていた。
まぁ、リズム感が悪いのって一日でどうにかなる問題でもないよな。
今日1日、意識してやってみたおかげで、完走しきれないのは俺のせいだと改めて強く感じた。
でも、このままじゃ流石に不味いか。
東雲も何とかしようとアドバイスをしてくれるが、やはり上手くいかなかった。
んー、流石にこれは重症かもしれないな……
そんなことを考えながら、ボーッとしているとメッセージアプリの通知音が鳴り響いた。
俺は乱雑に置いていたスマホを右手で捕まえて、画面をつけるとそこに音葉の名前が表示されている。
『そういえば碧、体育祭の練習は順調?』
うっ、こんな時に……
ここは見栄を張って順調ですと答えるべきか?
いや、それはすぐにバレるか。
実は今度開かれるウチの体育祭に音葉が見に来ることになっていた。
彼女の中学では珍しいことに運動会や体育祭といったものはなかったらしく、高校でも仕事が忙しくなってきたため今年の体育祭は参加できなかったみたいだ。
それで俺がチラッと話題に出した体育祭に音葉は強く食いついてきた。一度でいいから見てみたいと懇願されてしまっては断りにくかったのだ。
いやぁ、こんな小さな餌で大物が釣れるなんて今年は大魚だなぁ……なんて冗談は置いておくとして、このままじゃ情けない姿を晒すことになってしまうだろう。
既にさんざん見せて来たかもしれないが、俺だって男だ。
音葉みたいな可愛い女性にはカッコいい姿を是非とも見てもらいたい。
そんな願望が強く前に出過ぎてしまったがために、やる気があるだなんて東雲に違和感を抱かせてしまったのだと思う。
今となっては、状況はかなり絶望的だがな。
えっ、ちょっと待てよ……リズムのことならプロの歌手である音葉に聞いたら一番じゃねーのか?
そう思い、俺はすぐに指をはしらせた。
○
体育祭の練習はもちろん順調だ!それより、俺この前カラオケに初めて行ったんだけど……めっちゃ下手だったみたい。特にリズムが悪いって。
何かリズム感が身につく方法とか知らない?
○
送信して暫くすると、音葉から返信ではなく電話がかかってきた。
『もしもし碧、カラオケに行ったって本当?』
俺の質問に対しての返答かと思いきや、全然違った。
なんでカラオケに行ったことを疑われてるんだか……
「なんでそこで嘘つかなきゃいけねーんだよ、因みにだがヒトカラじゃないからな」
俺がそう言うと電話越しに息を呑む音が聞こえてきた。
音葉のやつ本気で驚いてやがる……
『もしかして、この前に言ってたもう一人の友達の人と?』
確か前に友達が音葉を含め二人いるって言った記憶がある。
つまりもう一人の友達とは斗真のことか。
「いや、違うぞ。また別の人だ。
正直、まだ友達って言える感じじゃないんだが、それなりに良くはしてもらえたよ」
楽しかったかは別にしてな。
『そ、そう……
にしてもカラオケかぁ、なんかいいなぁ』
「ん、今なんか言ったか?」
『ううん、なんでもないよ。
それでリズム感が身につく方法だっけ?簡単に出来ることと言えば歌いたいと思ってる曲を聴き込むとかかな。後はメトロノームって分かる?』
「ああ、うん、一応分かるかな。
あのカチカチ音が鳴るやつだろ?」
『そそ、多分想像してるので合ってると思う。
そのメトロノームを使いながら練習したりすると上達しやすくなるよ。
それとも……もし良かったらなんだけど私が直接教えてあげようか?』
「えっ、……いいのか?」
『教えるって言っても簡単なことしか分からないけど、少しなら力になれるかもしれないわ』
少しでもって、あの有名なRoeleに教われるんだろ?
お金を払ってでも教えて欲しいっている人達は星の数ほどいるはずだ。
「そんなの寧ろこっちからお願いするよ。場所はカラオケとかで大丈夫?」
『うん!
日時は丁度明日なら空いてるから明日の放課後とかどう?』
「おう、多分行けると思う」
東雲には悪いが明日の練習は少し延期にさせてもらうとしよう。
こんなチャンス二度とないだろうしな。




