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孤高を貫く俺にとって息を合わせる競技は難解です ④


「プハハハッ、いや無理、マジでちょ〜死ぬんですけど」


 結局、かの有名なアニソンを歌うことになった俺だったのだが、曲が始まって直ぐに東雲の様子がおかしくなった。

 お腹を抱えてうずくまって肩を小刻みに震えさせていたのだ。そして、歌い終えた今では隠すことを辞めて大爆笑している。


「あのさ、こっちは真剣に歌ってんだよ」


「アハハハハ、真剣だから面白いんじゃん!

 予想はしてたけどまさかここまでとは!。いやぁ、驚きだわ〜、良くそれでMy Life 歌おうと思ったよね」


 東雲にここまで言われれば流石に気づく。

 どうやら俺は相当な音痴だったらしい。そして、彼女は少し落ち着いたのか脇腹あたりを抑えていた。

 笑い過ぎてお腹が痛くなったらしい……これは普通に失礼ではないだろうか?


「おい、点数は48点ってそれなりに出てるじゃんか、初めてで半分ぐらいとれたら上等な方だろ」


「ないないない、初心者の子と何回も行ったことあるけど、ここの機種で60点台すら一度や2度しか見たことないから。48点はマジでちょーレアだよ!記念に写真でもとっとこ」


「そんなこと、させるか!」


 しかし、時は既に遅し、隣からはパシャリッ、パシャリと何度かシャッター音が聞こえてくる。

 ああ、俺の黒歴史が一つ作られてしまったようだ。


「はぁ〜、笑った笑った。ここまで笑ったの結構久しぶりかも……」


 東雲は大きく息を吐いた後、少し声のトーンを落とした。

 そういえばそうだったな。教室では誰かと喋る姿を最近は見ていない。

 おおよその人が彼女のことを避け、また、彼女自身もなるべく関わらないようにしてるようだから、会話など生まれるはずもなかった。


 俺は東雲にキツくあたったことに後悔はないが、彼女がそうなってしまったことには責任を感じている。


「別にアンタを恨んではないからね。あの時は凄く腹立ってたけど、今となっては単に、私が馬鹿で考えなしだったってことは十分に分かってるから。

 あーあ、少し考えたら分かることだったのにな……」


 東雲はそう言ってから天を大きく仰いだ。

 今の状況に諦めがついているのか、また、それが自分の罰だと捉えているのかは分からないが、既に現状を受け入れてしまっているように見えた。


「あのさ、俺がこんなこと言うのも何だけどさ。

 もし、お前が斗真と本気で仲直りしたいって言うなら、少しは協力してもいいと思ってる」


「へっ?……アンタは私と斗真が一緒に居るのが嫌だったんじゃないの?」


「ああ、嫌だったな」


「だったら何で?」


 東雲は驚き、不気味だと言わんばかりの顔で俺にそう聞いてくる。


「……あれから斗真も寂しそうなんだよ。お前との出来事があった、あの時からずっとだ」


 言葉には余りしていなかったが、斗真はかなり苦しんでいる。そのことに他の人は気づかないかもしれない、でもそれが俺には分かってしまった。

 なんせ、斗真とは長い付き合いだからな。


「それに、もうあんな間違いは犯すつもりはないんだろ?」


 東雲は俺の問いかけに対して力強く頷いた。


「絶対にしない……でも、そう言ってるだけじゃ信じて貰えないってことぐらいは私でも流石に分かる。

 だから、今すぐに謝って許して貰うなんてほぼ百パーセント無理でしょ」


「そうかもな、そもそも別に今すぐにはとは言ってないさ。

 東雲の心の準備が出来てからで構わない。

 まぁ、とにかく俺が言いたかったのは、ただ黙って今の状態を保つ選択肢しか選べないわけじゃないだろ、っていうことだ」


「そうね、一度考えてみる……それとありがと」


 感謝? それは今の俺にふさわしくはないだろう。俺がこうして東雲に協力を持ちかけるのも、斗真の頼みと自分の罪の償いのために動いてるだけだからな。


「気にするな、別に俺は——」


「斗真の為、なんだよね?」


「ああ、そうだ」


「それは分かってるって……でもさ、私が斗真の為に動いてるアンタに助けられてると感じてるんだから感謝ぐらいさせろよな」


「分かった、受け取っておくよ。

 それにしてもどうして急にカラオケなんかに来たんだ?」


 未だに東雲の意図が俺には分からなかった。歌が上手いのを見せびらかすためではないだろうし……

 でも、このままじゃ、俺だけが恥をかいただけで終わりじゃん!


「なんで48点だったか分かる?」


 なんだよ、唐突に。俺をディスりにきたのか?

 と思いつつも、とりあえず答えてみる。


「それは俺の歌が下手だったからだろ?もしくは機械の故障だな」


「もちろん、アンタの歌が下手なのは間違いないし。

 それで、それの何処が下手だったのかって聞いてんだけど。ほら前にも結果は出てるじゃん」


 俺のちょっとしたボケはスルーされてしまい、その代わりに下手という部分を強調されダメージという名のお釣りが返ってきてしまった。


 何処が?って自分じゃ分かってないからこうなるわけで……

 そんなことを考えながら俺は再びモニターに目を移した。

 すると驚いたことに様々な項目が表示されていた。それも採点付きでだ。

 音程、安定感、リズム、ロングトーン……ってリズムと安定感、めちゃくちゃ低くくね!?


「もしかして俺の歌はリズムと安定感が悪いのか?」


「そそ、それ以外にもいくつかあるけど、やっぱり一番目に止まるのはリズムだな。

 二人三脚してる時のリズムが悪かったから、もしやと思ったんだけど大正解って感じ。まぁ、カラオケに来た理由はそれだけ。

 でも、原因が分かったなら改善はできるっしょ。まだ1時間半ぐらいは残ってるし」


 コイツ意外と俺のこと気にしてくれてたんだな。

 にしても残り1時間半か……えっ、い、1時間半!?


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