孤高を貫く俺にとって息を合わせる競技は難解です ②
足首にバンドを付けたあと、俺たちはとりあえず歩いてみるところから始めることにする。
にしても……東雲との距離が結構近い。というか、足首に至っては触れてしまっている。
普段女性とここまで接近することはないので、本音を言うとかなり恥ずかしかった。
だからといって全く気にしてなさそうな東雲に対してそんな反応を見せたら、からかわれて終わりだろう。
ここは平常心、平常心でいよう。
「東雲、(俺は)左足からだ」
「分かったわ」
それから小さく「せーの」と掛け声をしてから俺は左足を出した。その結果、見事に俺だけ転倒した。
「痛って、待てって、お前も左足出してどうすんだよ」
「いや、アンタが左足からって言ったんでしょ」
「普通に考えりゃ分かるだろ、俺が左足出すからお前は右足出せってことに決まってんだろ」
「それ主語が足んないから分かんないって」
そう言われてみると、そうかもしれないと思ってしまった。
「……確かに言ってなかったかもな。すまん、じゃあ互いに外側の足からで、だから東雲は右足からな」
「それなら大丈夫そ」
気を取り直して再び声掛けを行ってから足を出した。
おっ、いい感じじゃね。
左足を出した後、スムーズに右足が出せた。もちろん足首に閉塞感は残っていたが、バラバラだった時のような重みはない。
「よし、もうちょいスピードあげるぞ」
「うん」
新たな掛け声と同時に駆け足程度にペースアップする。
すると、途端にリズムが狂った。
「ちょっ、律真。もーちょい歩調を合わせろよ」
「いや、お前こそだろ。だから少しタイミングが早いんだって」
「うっさいわね、人のせいにしないでくれる?マジでありえないんだけど……」
「人のせいも何も事実を言っただけだろ、——って、うおぉぉお!!」
罪の押し付け合いの会話に気を取られたこともあって、歩調が完全に噛み合わなくなった俺たちは盛大に地面にダイブした。
「痛ったぁ〜、アンタのせいで膝擦りむいたじゃない」
「お前が急にペース緩めるからだろうが」
東雲と言い争っていると、周りからはクスクスと笑い声が聞こえてくる。
ダメだわ、これは終わる頃には心身ともに怪我の数が馬鹿みたいに増えていそうだな。
それから50メートルを目標に何度かやってみるも、やはり最後まで到達することは出来なかった。
嘘だろ、まだ走るってレベルでもないんだぞ。
「くそっ、なんで出来ねぇ」
「何回もやってみて分かったわ、やっぱアンタのせいでしょ」
俺の独り言のようなものを拾った東雲は確信を持ったようにそう言ってくる。
「いやいや、お前だって……」
俺はそう言いかけて途中で辞めた。確かに掛け声をしていく最中にタイミングが分からなくなってしまうことが度々あったからだ。
そんな俺の様子を見て、東雲は呆れた表情で口を開いた。
「やっぱり少しは自覚あるんじゃない、全部が律真のせいとは言わないけどさ、アンタさ途中でリズムが崩れてるって自分で気付いてる?」
余り認めたくないが、ここは認めるしかない……か。
ある程度は自分でも感じてることだった為、俺は渋々頷いた。
「ああ、何となくだけどな」
「それなら、重症って訳でもなさそうだけど。
そうだな……今日はもう疲れたし練習はここら辺で終わりで良くね?ちょっと用事も出来たことだし」
「用事が出来た?」
「そそ。それで律真、このあと暇?」
「自慢じゃないが、人より予定が埋まっていない自信はある」
「それ、胸張って言うようなことじゃないっての。まぁ、いいや。だったらこの後少しツラかせや」
「えっ?」
なに!?俺、今からシメられんの?
○○○
それから着替えを済ませて東雲と再び合流すると、何処かへと歩き始めた。
「何処行くつもりなんだ?」
「ん、ヤバい場所。
まぁ、ついてからのお楽しみだって、多分ビビるだろうけど」
なんだよヤバい場所って、抽象的過ぎるだろ。それにビビるだって?そんな言われ方して楽しめる要素が何処にある。
そして、歩き始めて20分ぐらい経過した後、とある建物の前にいた。
「嘘だろ……」
「ハハッ、マジでビビってんの。軽くウケるわ」
「なぁ、東雲、ここって」
「そうそう、カラオケ。アンタ絶対に来たことないでしょ」
東雲の言う通り、俺はカラオケという存在は何度も目にしておきながら、一度も来たことがない。
「ここから先は未知の領域だな」
「プッ、そんな物騒なもんじゃないから。じゃっ、行くよ」
俺の言い方がおかしかったのか、東雲は少し吹いてから店内に入って行く。
いやいや、こんなとこ陽キャラ専門店だろ……無理だって俺が入れる訳ねーじゃん。
しかし、東雲はどんどん奥へと進んで行ってしまう。
このままじゃ置いてかれる。あれ?寧ろここは置いてかれるべきところなんじゃ……
だが、斗真にも頼まれてることもあって、東雲を一人にして帰れる筈もなかった。
あぁ、こうなったらもう覚悟を決めるしかないよな。
仕方なく前進することを決めた俺は少しビビりながらも入店するのだった。
少しばかり陰気な俺にとってはなかなか厳しい闘いになりそうだ。




