帰宅部ですけど何か?
いろいろとあったことで俺は大切な行事を完全に忘れていた。
いつも通り学校に来て、いつも通りに過ごせば良いとそんな風に思っていたのだが、どうやらそうはいかないようだ。
6月が終わりかけのこの時期、他の学校とは少し遅れたタイミングでこの学校、村梨高等学園では体育祭が予定されている。
「皆さん、後もう少しで昨年と同じように体育祭があります。この学校の体育祭は7月と少し暑い季節になりますが、熱中症に気をつけて頑張りましょう。
種目の一覧はここに置いて置きますから、あとはこの時間を使ってクラス委員を中心に振り分けて下さい。それでは」
浅野先生はそれだけを告げると、用は済んだとばかりに教室を出て行った。
マイペースというか、何処まで行っても俺ら生徒に無関心だな。
それからクラスの委員長である、白井 幹人を中心にそれぞれの出場種目を決めていくことになった。
白井は競技の種類と内容をひと通り読み上げた後、それぞれのやりたい種目で手を挙げるようにと指示をする。
どうやら、その後にそれそれの適正を見て出場競技を決めていくようだった。
クラスメイト達の気持ちを取り込んだ上で、本気で勝ちに行くメンバーを選びだす。
それぐらい今回の体育祭は気合が入っていた。
確か優勝クラスは高級焼肉店で打ち上げをさせてもらえるんだっけか?
去年の先輩たちがそうであったように、そのルールは今年も無事適用されるようだ。
だからこそ、クラス全体的にモチベーションが高くなっている。
それにしても暑いのに皆んなよくやる気になるよな……
俺はまるで他人事のように思いながらその光景を見つめていた。
すると、そこであることに気づいた。
ヤベっ、今年は俺も参加するじゃねーか。
去年は怪我で休んでいた為、ついつい関係ないものだと思い込んでしまっていた。
しかし、今の俺の身体は何処からどう見ても健康体だった。
ルール上1人、二種目以上は出なければならず、そこで俺は必死に考えた。
ラクそうな大縄跳びは既に埋まってしまった。それなら個人競技でマシなものを……
しかし、たった今、100メートル走の走者が全て決まってしまう。
嘘だろ……
そして、残念なことに、その他の個人競技もいつの間にか殆どが締め切られていた。
こうなったら仕方ない、俺は棒引きの競技で素早く手を上げる。複数人でやるもので有れば一人ひとりは余り目立たないと考えてのことだった。
そこは無事に間に合ったようで、俺はホッと一息をついた。
ただ、ここからが問題だった。
残りの種目はちょっと、いやかなり厳しかった。
借り物競争
うん、これは論外だな。コミュニケーションを取ることが苦手な俺にとっては少し荷が重い。
二人三脚
これも同様の理由で却下だった。
三人四脚
二人三脚でだめなのに人数が増えてどうするよ。これも全くダメだ。
後は1500メートル走で最後か……正直しんどいのはヤダけど、他のものに比べるとマシのように思える。
そう考えるや否や、俺は1500メートル走に立候補した。
すると、タイミングを同じくしてバスケ部の秋元も自ら名乗りでた。
「充いいのか?」
「ああ、誰もやりたがらないだろうし、俺は体力にはそこそこ自信がある。任せて貰って大丈夫だ」
「そうか、じゃあ頼んだ」
あれ、俺は?
白井のやつ俺が手を挙げてたことに気づいてないのか?
しかし、ここは俺にとって死活問題であるため、このまま引き下がる訳にもいかなかった。
「あのさ、俺も1500メートル走がいいんだけど」
「えっ、あっ……確かお前は、ヒツマだっけか?」
いや、誰だよそれ。絶対ひつまぶしに引っ張られてるやつじゃん。
「違う、律真だ」
「悪い悪い……結構合ってた自信あったんだけどな」
何処からそんな自信が湧いてきたんだよ、とそれはさておき本題に入ろうか。
「それで、俺も1500メートル走に出たいんだけどダメか?」
「ああ、そうだったな。
ちなみに律真って今、何部だっけか?」
「き、帰宅部だ……」
「だよな、それに対して充は俺と同じでバスケ部なんだ。
流石に分かってると思うけど、1500メートルって結構距離が長いから体力が必要になる。だから運動部である充の方が良いと、俺は思うんだけど皆んなはどうだ?」
白井がクラスメイト達にそう問いかけると、殆どの生徒が白井の意見に賛同してしまった。
あれ?、もしかしてこれって強制的に決められた感じか?
まぁ、確かに誰がどう見てもこの場でふさわしいのは秋元の方なんだけど……
しかし、そこで斗真が割り込んでくる。
「幹人、ちょっとそれは強引じゃないか?
勝ちたい気持ちは分かるけどもう少しお互いに納得できる方法の方がいいと思う。
それに碧だって……」
「いや、斗真。そう言ってくれて有難いが、やっぱり俺は別の競技にしとくよ」
俺は内心ではまだ出たいと思いながらも、今回は大人しく引き下がることにする。
ここで出しゃばった結果、勝てませんでした、じゃ一生恨まれるだろうからな。
それから、数十分かけておおよその競技者が決定した。
そして、俺がその結果に1500メートル走を諦めたことを死ぬほど後悔したのは、これから少し後のことだった。
 




