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成長した雛は親鳥に立ち向かう③ 〜side音葉


「ホントにごめんなさい。」


 母は再び、私に対して頭を下げた。


 でも、そうじゃない。

 頭を下げてもらったところで何かが変わる訳じゃないのだ。

 

「別に謝って欲しかった訳じゃないの……

 あのね、お母さん。

 私はお母さんの言う通りまだまだ甘えてばかりの子供かもしれない。自分の音楽に責任を持つなんてことまともに考えたこともないし、自分の曲の売り上げに対する利益なんかについてもお母さんに任せきり。

 だから、お母さんが考えなしの私を怒ってくれることは多分正しいことなんだと思う。

 ……でも、私にだってやりたい事はあるし、自分の意見をちゃんと持ってるの。全てこうしなさい、ああしなさいとかで、そうやって決められ続ける人生には耐えられない。

 まるで私が私でなくなるようなそんな気がして…

 私だってちゃんと成長してるわ。少し我儘かもしれないけど、お母さんにはそんな私をそばで見守って欲しいの。」


 私が喋り続ける間、母は静かに耳を澄ましていた。どのくらいこの想いが伝わったのかは分からないが、今回は真剣に聴いてくれてるのだとは感じた。


 ―― 私が知らない間にこんなにも ――


 私が全てを喋り終えた後、母は小さくそう呟いた。

 

 話の途中で俯いてしまったため、顔が髪で隠れてしまい表情を確認できなかったが、母の震え気味の声と机の上に落ちていく数滴の雫を見て、泣いているのだと分かった。


「私、貴方のことを見てるつもりで、全く見れてなかった……

 これからはもっと、ちゃんと、貴方と向き合うからっ!、お願いだから死なないで、死のうだなんて思わないでっ!!」


 ガバッと顔を上げて机に両手をつき、必死に私へと訴えかけてくる。


 私はそんな母の姿を前に思わず目頭を熱くさせてしまう。それと同時にお母さんに勘違いさせてしまっていたことに気が付いた。

 

「あっ、そのっ、お母さん。 ……私、もう自殺しようなんて考えてないから。」


「へっ!?」


 不思議そうな顔をしてこちらを見つめる母。でも、私のあの言い方ではそう勘違いするのも仕方ない。


「さっきは勢いに任せて自殺だなんて言っちゃったけど、今はもう違うの。苦しいことから逃げ出すだけじゃダメだって、ある人に教えて貰ったから。だから今日こうしてお母さんと向き合えてる。」


「音葉にそんな人が?……」


「うん、見た目はパッとしない感じなんだけどね、でもとても優しくて頼りになるのっ!」

 

 私はそう言いながら頭の中で一人の男性の姿を思い浮かべる。

 陰気な雰囲気にしては体とかは結構ガッシリしていたような……

 それに肌も凄く綺麗だったわ。


 そんなことを考えた後、ふと母の方を見ると、口をポッカリと開けて驚きの表情でこちらを見ていた。


 完全にやってしまった。

 さっきの私、一体どんな表情をしていたのだろうか……

 そう思った途端、急に顔が熱くなってくる。


「あっ、その違うから。彼とはなんともないから!」


「彼って……まさか男の人なの?」


「違う違う、って違わないけど違うから!本当に何もないから!

 ―― さっさっ、それよりお母さんの話って言うのは?」


 自分でいろいろとしゃべっておきながら、恥ずかしくなってしまった私は話を逸らす為に慌てて口を開いていた。


「強引ね……まぁ、いいわ。私の話は美里さんについてよ。貴方が美里さんに対して失礼な態度をとったって、苦情を言われたのよ。美里さんとはずっと昔からの仲だし、貴方もかなりお世話になってきたでしょう。

 彼女が私の方に苦情言ってくるのも初めてだし、少し気になってね。

 ……それで実際のところどうなのよ?」


 母は少しばつが悪そうに視線をさまよわせながら、こちらの様子を伺ってきた。


 正直、その母の行動は私の予想していたものとは大きく違っていた。


 理由も聞かずに怒られるものだと思っていたのに……

 もしかしてさっきの私の話を気にしてのことだろうか? ともかくどんな理由にせよありがたい状況なのには変わらないわ。


「実はね、とても情けない話なんだけど、美里さんには今日のことで協力してもらおうと思って声をかけたの。まぁ、見ての通り結果的に断られっちゃったんだけどね。

 その際にちょっといろいろと口論しちゃってさ……」


「そう、その話の内容を詳しく聞かせてくれるかしら?」


 それから十分ほどかけて私はその日の出来事を母に話した。もちろんその話の中には異性である碧の存在も出てくるため、余りいい顔はされなかったけど……


 母はそれらの話を目を閉じて腕を組みながら聞いたあと、大きなため息をついた。


「はぁ、美里さんがそんな状態に…… でも、それも私の責任よね、まさか音葉の曲の売れ行きによってボーナスを出していたことがこんなことに繋がるなんて想像もしてなかったわ。

 音葉、美里さんの方には後で、私から話をさせてもらうから任せてもらえるかしら?」


「うん、わかったわ。迷惑ばかりかけてホントにゴメンなさい。」


「別に貴方が謝ることじゃないわ、寧ろ私が責められるべき問題よ。」


 それから母は時計をチラリと見てから席を立った。


「ごめんなさい今日はこれでお開きにしましょう。今回の話のことで少し頭の中を整理したいから、それにもうすぐ美里さんも帰ってくるだろうし。

 あと音葉、あまり異性とはくっつき過ぎないようにね。スクープにされると大変なんだから。」


「だっ、だから、碧とはそんな関係じゃないんだってば!!」


「その割には下の名前で呼んでるわよ」


「それはっ!」


「別に男を作るなって言ってる訳じゃないの、ただもう少しタイミングを見極めてちょーだい」


 そう言って母は少し疲れた様子を見せながら寝室へと入っていくのだった。

 

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