彼の居ない食事会⑥ 〜 side音葉
私たちの目の前に現れた男性は身長が高く、鼻筋がキレイに通っていて、少し日本人離れしている。
髪も金髪で、目もやんわりとした青色だ。彼を一言で表すなら、爽やかという言葉が一番最初にくると思う。
「お二人とも初めまして、杉浦 ホークスです。藍さんの親戚にあたります。宜しくお願いしまいまにゅっ」
しまいまにゅっ!?
噛んだ、絶対にいま噛んだよね?、それなのに当の本人は全く知らん顔をしている。
それに、なんだか妙に動きが硬いような……
杉浦さんが私たちに頭を下げてくれたけど、何処かロボットっぽく感じてしまった。
意外と緊張するタイプなのかな?
「杉浦さんって、もしかしてハーフなん?」
どうやら、私がそう思ってたように、柚月も同じように感じていたようだ。
「はい、イギリスと日本のハーフです」
「ふぇ〜、どうりで身長高いと思った。それに色白で、
普通に羨ましいわ。
私は桜木 柚月、完全純血の日本人や!宜しく頼みます」
「桜木さん、宜しくお願いします」
先程とどうように礼儀正しくお辞儀をする杉浦さん、今度は滑らかな動きだった。さっきのは私の見間違いだったのだろうか?
「それで、そっちの女性の方がアイさんですか?」
「はいはい、大正解!!、私がマスカレー……、町丘 藍っす。ゆづポン、よろしくね!」
「ゆ、ゆづポン!?、それ私のことですか?」
町丘さんそれ、どうしてそれを初対面の人にやっちゃうのよ。流石に柚月も引いてるんじゃない?
「そうだよ、可愛らしくて良いと思うんだけど、どうかな?」
「うーん……アリよりのアリやなっ!!」
ありなのね……、と内心では思ったが、別に柚月が嫌がってる様子もないし、寧ろなんか乗り気だし、ここは本人が良いのであれば問題はないのだろう。
「んじゃ、私はマッチーって呼ぶね」
「うひょっ、いいねマッチー!凄いカワユイじゃん!!」
一応、町丘さんの方が歳上なんだけどなぁ……
当の町丘さんはあだ名をつけられて少し嬉しそうにしていた。いったい歳上の威厳は何処にいったのやら。
いや、だから本人がいいなら、いいんだけどね。
それより柚月と町丘さん、打ち解けるの早過ぎない!?
私、これでも町丘さんとは結構長い付き合いのはずなんだけど……あって数分の人に負けるなんて・・・
距離感に関しては既に、私の遥か先を行っている。
自分のコミニュケーション力のなさを痛感した。
しかし、その一方で「うわぁ、藍さんのテンションに付いていける人初めて見ました……」と驚いてる男性が一人。
ああ、杉浦さんはこっち側でちょっと安心だ。
若干引き気味な彼の様子を見て、自分は至って正常だったのだと思えた。
「んじゃま、とりあえずお邪魔しまーす」「失礼します」
4人席で柚月の前には町丘さんが座り、その隣、つまり私の正面に杉浦さんが静かに着席した。
「それで、音葉ちゃん達は何の話をしてたんですか?」
「あっ、それはっ——」
「そうそう、音葉の彼氏について聞いてたんやった」
柚月!?
余計なこと言わないでよ!
私は絡まれると確実に面倒なことになると判断して、なんとか誤魔化そうと口を開いたのだが、その前に柚月がスパッと言ってしまった。
その瞬間、町丘さんの目がギョッと開かれる。
「おっ、音葉ちゃん、おめでと!!
いやぁ、ついにって感じだわぁ〜。まぁ、遅かれ早かれなるとは思ってたんだけどね。
それで、どっちから?、どっちから告ったのよ?
もしかして難攻不落の人形歌姫からっ!?、それとも〜」
「だ、だから、違うって!、まだ碧とは別に恋人関係とかじゃないんだってば!!」
あうぅっ……もうやめてよぉ〜。
「えっ、ホントですか?、前にあんだけ甘い雰囲気出しておきながら?」
「ちょっとちょっと、マッチー。私、全然ついていけないんだけど、音葉の甘い雰囲気?、なにそれめっちゃ聞きたい内容やん」
「えっ、ゆづポン知らなかったんだ。任せて、私がこれまでにあった全部を教えてあげる」
「おっ、ええねぇ、ついでに連絡先教えて貰っても?」
「おけまる、おけまる!」
町丘さんは自分の携帯をポケットから取り出した。
「っあの!、ホントのホントにまだ碧とは何ともないですからね」
「音葉、自分でまだ、って、言っちゃってるやん」
「それも2回目だよーん」
「そ、それは……あーもうっ!!
確かに付き合いたいとは思ってます!」
これで良いですか?、と私は柚月と町丘さんの二人に視線を送る。
すると、二人とも揃って良い笑顔でサムズアップしていた。
うん、なんかムカつくわね……途中から絶対に揶揄われていただけだ。それは恋バナ初心者の私にもよく分かった。
それにしても、なんでこうも息があってるのだろうか?
私は心底迷惑な才能だと思った。
「ホーくん、音葉ちゃんにはアイラブユーな人居るんだって、それは残念さんだねぇ〜。ってな訳でボーイ、大好きな音葉ちゃんのことは諦めてあげてね」
「「えっ!?」」
今度は私と柚月がギョッとさせられた。
えええ、ごめんちょっと色々ついていけないんだけど。
私のこと好きだなんて急に言われても……
そんな私の戸惑いを受けてか、杉浦さんは首を横に大袈裟にブンブンと振った。
「あのっ、違わないけど違うんです。確かに僕は音葉さんのことが、だ、だだだ大好きです!、でも、それはあくまでもファンとしてなだけですから、決して恋愛感情は抱いてないですから!!あっ——」
ゴトンッ!
動揺からか身振り手振りが大きくなり、机に置かれていたボトルを倒して中の水を大量に溢してしまった。
「す、すみません!」 コトンッ!
慌ててお手拭きで拭いていると今度は私の前に置かれていたコップをこかした。
「あーっ!、本当にすみません」
「ちょっと、ホーくん一旦落ち着いてて!、後は私が片付けるから」
町丘さんにそう言われてしまった杉浦さんは顔を真っ赤にして椅子の上でお山座り状態になってしまった。
見た目に反してなんか子供っぽくて可愛い。可愛い、だと柚月の彼氏もこんな感じなんだろうか?
そう思って柚月の表情を伺うと、少しだけ顔を引き攣らせて固まっていた。——いや、どんな表情してるのよ。
それにしてもまさか、町丘さんから落ち着いて、と言う状況があるなんて……ちょっぴり、いやかなり驚きだった。
「うぅ、僕、緊張するといつもこうなんです」
杉浦くんはごめんなさいと消え入りそうな声で言った後、更にダンゴムシのように身体を丸めて殻の中にこもってしまった。
「もう、ホーくんいつもはしっかりしてる癖に、それに今日、音葉ちゃんに会いたいって言ったのホーくんだからね。
音葉ちゃんにゆづポンは大丈夫?水、全身でバシャウェイしてない?」
いや、意味が分かんないから。でもとにかく水を浴びてないか?ってことなんだと思う。
「あっ、私は大丈夫です」「私も大丈夫そう」
実際は少しだけ濡れてしまっていたが、このくらいでアレば全然我慢できる。これ以上、杉浦くんを追い詰めないためにも、私は黙っておくことにした。
やっぱり皆んなが楽しめるような雰囲気が大切なのだ。なにせ、私の楽しい楽しい食事会はまだ始まったばかりなのだから。
次話から本編に戻ります




