犬猿の仲
「おはよう碧!」
「おはよ音葉」
俺が早めに集合場所に到着すると、既に音葉が待っていた。
なんかもう毎度のことのような気がするが、一体いつから居たことやら……
「にしても……」
俺は思わず視線を下に逸らした。
「ん、どうかした?」
「い、いや、何でもない」
とは言いつつもホントは少しだけ、いや、かなり音葉の私服姿に度肝を抜かれていた。
だって、今日の音葉はマジでヤバい。
目のやり場が困るくらいの短いショートパンツに、ダボっとした白色の半袖パーカーを着ていた。何処でも見るシンプルなファッションだったが、それがまた彼女の美しさを際立たせている。
それに、何がとまでは言わないが、上のパーカーのせいで一瞬、履いていないように錯覚させられてしまった。
こんなの、年頃の男どもに見せるもんじゃねーよ。
正直、音葉の性格からしてももっと控えめなものを着てくると思ってたんだが……
まさか、体育祭の時みたいに、また五十嵐さんに騙されてたりしないよな?
とにかく、あまりジロジロと見ないようにしないと……
俺は少しだけ音葉から目線を逸らすと、出来る限り遠くの方を見るようにした。
これなら音葉から見ても別に不自然には映らないはずだ。
「本当になにもないの?、そんな顔はしてない気がするけど……」
「大丈夫、気のせいだ」
「だったら、ちゃんと目を見て返事してよ」
なんか、普通にバレてたんだけど……
胸を見てる時に気づくように、女性という生き物は視線に敏感なのかもしれない。
俺は一度気を引き締めてから彼女目をしっかりと見つめた。
すると、そこにはエメラルド色の綺麗な瞳があって、思わず吸い込まれそうになってしまう。
「ホントに気のせ——「ちょっと待って、私が無理かも」」
俺が全てを言い切る前に音葉が声を張り上げ、突然下を向いてしまった。
「えっ、音葉?、どうしたんだ?」
そう声をかけるも返事はなかった。
その代わりに赤く染まった音葉の横顔がチラッと見える。
「碧……久し……だったし…………」
音葉はその後に何かゴニョゴニョと言っていたが、内容は全く分からなかった。
顔も赤いし、呂律も回ってない。
——それって、もしかして!?
「音葉、本当に大丈夫?
もしかして、熱とかあるんじゃないか?だったら帰った方が……」
無理をして海になんて入れば、間違いなく悪化してしまう。
俺は音葉に家に帰るよう説得を試みた。
「それは嫌!、そっ、それに、熱なんてホントにないからね」
しかし、音葉は俺の提案を断固として拒否をするのだった。
⌘
「おっ、碧、もう来てたんだ」
暫く時間が経過してから、約束していたもう一人の待ち人がこの場に現れた。
おっと、こっちはこっちで随分と派手だなぁ。
淡い黄色の服に、明るいデニムのショートパンツ。
ショートパンツ部分は音葉と被っていたが、明確な違いは上にあった。
何でヘソ出しなんだよ……
服のサイズがピッタリ目なこともあって、ボディラインがハッキリと見えてしまっている。
うーん、東雲だから予想の範疇とはいえ、参ったなぁ……
ホント目のやり場に困る。
とりあえずそんな想いは胸の奥に仕舞い込んで、俺は東雲に声をかけた。
「東雲か、意外にも時間は守るタイプなんだな」
携帯の画面にチラリと目をやると、集合時間のおよそ5分前くらいだった。
東雲が5分前行動……ね、プライベートだと絶対に10分以上遅れてくるタイプと予想してただけに少し驚かされてしまう。
「あ、当たり前じゃん。全然偶然じゃないし、いつものことだし……」
聞いてもないことを喋り出した東雲はかなり怪しいが、遅れて来た訳でもないので、今日のところは信じることにした。
「おはよう東雲さん」
そんな時、隣に居た音葉が突然、自分の存在を主張するように俺の前に出てくる。
「チッ……アンタ、本当に来たんだ」
おい、舌打ちはやめい!
絶対に関係が悪化するから……
「アンタじゃありません、鈴凪 オ・ト・ハ、です!」
案の定、音葉はかなり機嫌が悪そうに東雲のことを睨んでいた。
何でこんなに仲が悪いのだろうか?
この二人に関しては最初からそうだった気がする。
東雲はともかく、音葉の性格上、初対面の人に対して喧嘩腰になるなんてことはないはずなのだが……
なぜだか、東雲だけは例外だったようだ。
顔を合わせるのが2回目にして、まさかのこの険悪ムード。
多分、本当で気が合わないとか、そういうことなのだろう。まぁ、音葉が元気そうで何よりか……
さっきまでの顔の赤みもひいていて、今は大丈夫そうに見える。
だが、このままの関係では普通に俺がしんどい。だから、ほんの少しでもいいから二人の関係の改善を・・・
俺は密かにそんなことを願っていた。
「音葉も東雲も、もっと仲良くしてくれよな」
「「っ嫌!!」」
ここでの息はピッタリなんだな……




