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受け入れ難い情報


「あ、阿契、違うんだ。これには深い事情があって……」


 一人の男子生徒が、少し怯えた様子で斗真の様子を伺った。

 彼はよく斗真のグループに混じっていた生徒だったと思う。

 

 そして、恐らくイジメに関与していた人物だろう。


 斗真はそんな人物を酷く冷たい目で見てから視線を逸らした。


「深い事情……ね。 分かった、そのことについては後で話を聞くよ」


 斗真は彼にそう伝えると、すぐに東雲の元へと駆けつける。


「風花、大丈夫か?」


「と、斗真…… 違うの、私そんなつもりじゃなくて!

 そう、あれはちょっとしたお試し期間的なヤツなの。

だから、裏切ってなんかないよ。嫌いになんてならいよね?

 私には斗真が絶対に必要なの!」


 東雲は斗真の登場によって大きく反応を見せた。

 酷く憔悴した表情を見せながらも必死に言い訳を並べている。


「ちょっと、風花落ち着いて!!

 まったく内容が理解出来ないから一つずつ順に説明して欲しい」


「な、何ともないの斗真……私は悪くなくて、いや、ちょっと悪かったかもしれないけど、ちゃんと反省してるから、もう大丈夫なんだよ」


 残念なことに全く話が噛み合っていない。


 状況が分からない人間からすると、恐怖を覚えてしまうほどに、今の彼女からは異常性が感じられた。

 ただ、斗真にだけは離れていって欲しくない。その意思だけは強く伝わってくる。

 

 いつもはポニーテールにしていた東雲の髪型は既にぐちゃぐちゃになっていて、弁当のおかずらしき物までも散乱させている。

 更には中身を全てぶちまけられた筆箱に、チョークの粉まみれのカバン……


 その数々の衝撃的な光景を見て俺は思わず言葉を失ってしまった。


 かなり悪質なものばかりで、状況は芳しくない。


「風花、話はもう少し風花自身が落ち着いてから聞くことにするよ。とりあえずこの状況を何とかしないとな……」


 斗真は東雲のことを気にかけながらも、彼女の周りに散らかってるものを片っ端から片付け始めた。


「俺も手伝うよ……」


「ありがとう、碧」


 しかし俺は斗真からの感謝の言葉に反応出来なかった。

 何せ過程はどうであれ、この状況を生み出した1番の張本人が俺だったからだ。

 斗真に謝らなきゃと思いながらも、しかし、今の状況でそれを伝える勇気が俺にはなかった。


「皆んなも出来れば手伝って欲しい。どうしてこんな事になってるのかとか、いろいろと聞きたいことだらけだけど流石にこのままじゃダメだ。そうだろ?」


 斗真がそう声をかけるも誰も動く気配はなかった。

 そんな中一人の女性が恐る恐る口を開く。


「斗真君が優しいのは良く知ってる。でも、悪いんだけど、私はそんな汚い女に手を差し伸べたくはないの。

 それにね、その女のしたことは貴方にとって1番の裏切り行為だと言っても過言じゃないわ」


 この状況の中、斗真に声をかけたのは同じクラスの赤井さんだった。

 その赤井さんは東雲の友達、親友と言えるであろう存在だと俺は認識していたのだが……今では嫌悪感を全開にして喋っている。


「……赤井さん、僕にとって1番の裏切りってどういうことか教えてくれるかい?」


 斗真は東雲の親友にそこまで言わせている状況を把握したかったのか、赤井(あかい) 志保(しほ)に今日の出来事について尋ねた。


「その女はね、斗真君好きを表に出しておきながら、小藤のやつと深く繋がっていたの」


「ち、違うくて、斗真っ

 だからそれは勘違いで……」


 東雲が慌てて、そんな彼女の言葉を遮ろうとする。


「何が勘違いなのよ、体の関係まで持って置きながらっ!!

 不潔にも程があるわ」


「っーー、でも、でも、ホントに違うんだってば!!」


 ぐずるように喚く東雲に対して、斗真は少し強めに声をかけた。

 

「風花、今は少し赤井さんから話を聞きたいんだ。

 後で風花の話もちゃんと聞くから少し待っててくれるかな?」


「ホントなの?

 ちゃんと聞いてくれるんだよね?」


「ああ、約束する。絶対だ」

 

 斗真が東雲とそんな約束を交わすと、赤井さんに話の続きを言うように促すのだった。

 そうやって赤井の話を優先する辺り、斗真も少なからず先程の話の内容が気になって仕方がないようだ。


 そのことに本人が気付いているのか、そうでないのかは微妙なところに見える。


 それから大人しくなった東雲を横に赤井は斗真に今回の騒動に至るまでの出来事を少しずつ語っていく。


 そして、その話の内容はおおよそが俺が知っている事実通りだったのだが、違和感が残る部分が多々あった。


 何よりこの話には、東雲が一方的に迫って来たなどの他にも、彼女が圧倒的な悪者になってしまうような内容が多すぎる気がするのだ。


 彼女がどうして小藤と関係を持つようになったのか、その実際の経緯を俺はもちろん知らない。

 でも、俺にはあれは一方的なものではなくて、小藤自身も乗り気だったように俺は見えた。


 だからこそ、そこに違和感を感じている。


 まぁ、それこそ何も証拠が何もないことなので、どうすることも出来ないのだが……


 対して斗真はそんな彼女のしでかした内容を聞くにつれて表情を少しずつ曇らせていく。

 周りには悟らせないよう、表情を取り繕っているが、長年彼を見てきた俺には分かった。

 今の彼の心の中は酷く荒れているに違いない、と。


 だが、彼はものを片付ける手を止めることなく動かし続けたままで、その感情を表にだすことはなかった。


 それは恐らく、今の東雲の姿を見て、追い討ちをかけるようなことはしたくないと考えたのだろう。



「あっ……と、斗真、今度は私の話をして聞いてくれるんだよね?

 斗真は嘘を付いたりしないよね?」


 懇願する様に斗真のことを見つめる東雲。しかし、斗真は彼女と目を合わせられずにいた。

 それは少なからず彼がショックを受けていたことを表している。


「……ああ、ちゃんと話は聞くよ。でもそれは後でにしよう。

 風花、君は少し保健室に行って休んできたらどうだ?

 今の風花はとてもじゃないけど授業を受けられる状態には見えないよ」


 その、少し突き放したようなもの言いに、東雲の目から大量の涙が溢れてくる。


「斗真は私を見捨てたりしないよね?

 皆んなみたいに酷いことしないよね?

 ねぇ、違うって言ってよ。こんなの酷いよぉ……」


「悪い東雲、ちょっと失礼するぞ」


 俺はそう言ってから強引に東雲の手を取り力強く引っ張ると、教室の外へと引きずり出した。

 理由はもちろん保健室に連れて行くためだ。


 余りしゃしゃり出るつもりはなかったが、泣き崩れる東雲を前にして、唇を血の滲むほど強く噛み締めていた斗真の姿を見てしまった。

 流石にこのまま、彼女を教室に置いておくべきじゃないとそう判断したのだ。


 だってそうだろ、一番辛いのは裏切られたクラスメイトでもなければ、虐められた東雲でもない。


 彼女と親しく、友達であった斗真なのだから。

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