ぼっちングモール 〜side 風花
夏休みに入った影響によって、私は碧とも天音さんとも会うことがなくなってしまった。
彼らとはまだ、学校までの関係であって、プライベートまで一緒にいる友達にはなれていないのかもしれない。
もちろん個人的にはもっと仲を深めれたらなんて思っているのだが、自分からそれを言い出すのはなんか恥ずい。
かと言って、元居たグループの方は、最近になってようやく一言喋るようになったかなぐらいで、流石に遊んだりするのはまだ無理だ。
それに、1番の親友だった志保とはまだ仲直り出来ていない状況にあった。
あからさまに避けられてるから近づけない、というか私が近づくことすら許されていないようだ。
全ては自分が撒いた種だし、こればかりは仕方がなかった。
志保達を責めるのはお門違いというやつなのだ。
そんなこともあって、私はこの休み期間、かなり暇を持て余していた。
いつもなら後回しにしていた大量の課題が、ここ数日で殆ど終わってしまうくらいには……
「風花、最近なんかあった?」
リビングで朝食を食べていると、突然お母さんが私にそんなことを聞いてきた。
「別に、いつも通りだけど」
「でも、その割には全然遊びに行かないし、おとなし過ぎる気がするの。
もしかして、お友達と喧嘩でもしたの?」
流石に内容が内容なだけに、真実を伝えれるわけがない。
それに心配させるのも、なんかヤダしね……
「ホントになんでもないっての。
なんなら明日、遊びに行く約束してるし」
「そう、それなら良かったけど」
本当は予定なんて入ってなかった。でも、咄嗟に口から出まかせを言ってしまう。
ああ、どうしよ……碧でも、誘ったら来てくれるかな?
って、なんでプライベートでもアイツを頼ろうとしてるのよ。
アイツにとって私は少し仲の良い同級生でしかないはずなのだから。誘ったら迷惑に決まってるし……
元々はお互いに悪い印象しか持ってなかった。
でも、今は彼の側にいる時が学校で一番安心出来るタイミングになっていることを私は自覚していた。
最近、ようやく斗真と喋れるようになったとはいえ、まだ周囲を気にせずに会話できるまでにはなっていないのだ。
もしかして私、今、アイツに会いたいのかも……
⌘
次の日になっていつも通りに家族と朝食を食べ終えた私は、重たい腰を上げて、着替えてから家の外に出た。
結局、碧のことは誘えていない。
天音さんのことも一瞬頭をよぎったが、すぐにその考えを改める。
まだ、そんな仲良くないしね。それに、主に碧が中心となって集まってるグループみたいなもんだから流石に二人は厳しいよね。
ってか、普通はアイツの方からも連絡とかくれてもいいんじゃない!?
一応、昼ごはんを一緒に食べる仲なんだけど!
カラオケも一緒に行ったし……
そんな時にふと、ある女性の姿が脳裏をよぎった。
艶のある真っ黒な髪に、アイドル並みに整った顔立ちの女。
あの女は碧と親しい関係にあった。
二人は互いを名前で呼び合うまでには心を許している。
もしかすると、この夏休みも二人で過ごしているのかもしれない……
そう思うと、無性にムシャクシャしてしまう。
ああ、もう訳わかんない、兎に角私が悩んでるのは全部アイツのせいなのだ。
歩きながらそんなことを考えていると、いつの間にかショッピングモールの前に着いていた。
せっかくだし、昼までここで時間を潰して、ご飯でも食べてから帰るか。
それなら今までに何度かしたこともあるし多分、両親にも怪しまれないだろう。
それから、数時間ほど服を見たり、アクセサリーを見たり、財布を見たりとしていると、お腹が空いてきた。
携帯出して時間を確認すると、既に12時を回っていた。
結構集中して見てたんだなぁ……やっぱりショッピングは楽しいよな。
まぁ、一人よりも二人、二人よりも三人の方が好きだけど、それは、今の私にとっては高望みしすぎなのだと思う。
いや、もうそんなことを考えるのはやめよう。気持ち的にもどんどん暗くなっちゃうし……
そう、とりあえず飯だ。今は飯を食べないと!
私は1階の方にあるフードコートに向かうことにした。
不思議なことに、一人でいると周囲の会話をいつもより耳に入ってしまうようで、私はハンバーガーを食べながら、特に意識することなく隣の席に座っているカップルの会話を聞いていた。
「葵さん、映画どうでした?」
「いや、ホント凄く面白かったです!やっぱ命のリスペクトは外さないですよね」
「そうですよね!私も結構テンション上がっちゃって、最後の方とか叫んじゃいそうになりました」
ふぅ〜ん、映画デートってやつか……
楽しそうで何よりじゃん、でもなんかムカつく。
私は一人寂しく食事してるとこなのに!、もうリア充とか爆発しちゃえばいいじゃん!
そんな感想を抱きながら、何気に横目でそのカップルのことを確認した。
はっ?
…………
「えっ、あっ、天音さん!?」
ほぼ反射的にそう口に出してしまった私は、慌てて口を塞いだ。
しかし時は既に遅し、天音さんの瞳は確実に私のことを捉えていた。




