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ハイスペックな友人と平凡な俺の日常


 Roele(ロエル)それは今もっとも勢いに乗った、女性シンガーソングライターの名前だ。


 本名に年齢ともに、様々な部分が謎に包まれている彼女だが、ミュージックビデオなどには素顔を晒しており、その姿から10代後半だと推測されている。


 独特な曲調に、人々の心に突き刺さる歌詞。

 また、専門家も認めるほどの歌唱力を持ち合わせており、デビュー曲《 lonely 》で、月間ダウンロード数ナンバー1獲得、という偉業も成し遂げた。


 それからも数多くのヒット曲を作り出し続けた彼女は既に若者の中で、その名前を知らない人はいないだろう。


 俺、律真(りつま) (あお)の学校でもそうだった。

 最初は流行に敏感な人達がチラホラと会話にしていただけだったのにも関わらず、今では誰しもが話題にしている。


 実際に俺もRoeleのファンとまではいかずとも、通学中にその曲を聞くまでにはなっていた。

 ——そして通学中の今、現在進行形で聞いているのがこのlonely……


 何度聞いても飽きないメロディーに、透き通る歌声、人々が彼女の歌を愛する理由がよく分かる。


 だが、俺にはそんな彼女のことで気になる点が一つあった。

 それは彼女のデビュー曲、lonelyの歌詞についてだ。

 題名通りこの曲は、孤独を現しているようで哀愁な曲調で始まり、サビの部分で盛り上がりをみせて、最後にはしんみりとした終わりを迎える。

 もちろんその中には悲しみを表現するフレーズも多く使われていた。

 

 そして、俺が引っかかったのはその曲の最後のワンフレーズ、『私は何処へ向かっているのだろう』という言葉だ。


 楽曲制作において歌詞には自分自身の経験や誰かに贈りたいメッセージなど、その製作者の想いが強く込められることが多い。


 そんなことからも、俺は彼女は何かしら大きな悩みを抱えているんじゃないかと思ってしまっていた。

 もちろん、俺がそう感じたのは彼女のその歌詞からだけではない。


 MVでのそのシーンで、哀しさを醸し出している彼女の最後の表情……演技と言われればそれまでなのだが、彼女のその哀しげな表情に不思議とリアリティ性があり、どうしても頭から離れないのだ。


 まぁ、それ以降に出している曲の中には、アップテンポで前向きな曲とかもあるし、俺の考え過ぎだとは思うけど・・・


 そんなことを考えながら歩いていると、後ろから突然肩をポンと叩かれた。

 何事かと思い、慌てて振り返った先には、一人の爽やかな青年の姿があった。


 青年は俺と視線が合うなりニカッと笑って、並びの良い真っ白な歯を口の隙間から覗かせている。


「何だよ斗真(とうま)?」

 

「なんだよじゃねーよ、歩きながらイヤホンしてると、周りの音とか聞こえないし、危ないから辞めときな」


 俺の為を思って注意してくれる彼は、同じクラスの阿契(あけい)斗真(とうま)、俺とは違ってかなりのイケメン男子高校生だ。

 身長180センチ、運動良し、勉強良し、性格良しのハイスペックな万能人。


 いろいろと普通に羨ましいな、おい。


 そんな何もかもを持っている斗真から注意をされてしまうと、少しばかり性格のひん曲がっている俺はそのアドバイスを素直に受け取りたくないのだ。

 その為、適当な理由をこじつけては回避を試みた。

 

「心配するな、音量も下げて聞いてるしノイキャンも付いてない安物だから周囲の音もバンバン聞こえてるっての。今だって車の音で音楽かき消されてっから。」


「そうか、それだといいのか?」


 あれ、予想に反して通用しているのでは?


「いや、やっぱりダメだろ。」


 半分納得してしまいかけていた斗真だったが、最後にして何とか正しい答えに辿り着けたようだ。


 非常に面倒だが、音楽を聞いてない方が安全なのは間違いないし、実際にそうするべきなのだろう。ホントに面倒なのだが……仕方ない。


 屁理屈はさておき、俺は大人しく斗真の言う通りにイヤホンを耳から外して、手を中心に線をぐるぐる巻きつけるとポケットの奥にに放り込んだ。


 ああ、実に手間のかかるイヤホンだな。

 お金でも貯めてワイヤレスイヤホンが欲しいところだ。


 自分の言ったことに素直に従う、俺のそんな姿を見た斗真は嬉しそうに頷いていた。


「それで、イケメンで陽キャなお前が朝から何のようだ?」


「なんだよ(あお)、ちょっとよそよそしくないか?俺たち親友だろ」


「親友というより、腐れ縁なだけじゃないのか?」


「まっ、親友であり腐れ縁でもある、小学校の時から一緒だしな。ハハッ」


 そう言って小さく笑う斗真、彼には恥ずかしくて言えないが、俺が気を許せる数少ない人物だった。

 人はそれを親友と呼ぶのかもしれないが……


「ところで碧、一体何の曲を聞いてたんだ?」


「俺の雑草な心」


「なんだその、面白そうな曲は!?

 俺にも聞かせてくれ」


 適当に流そうと思って冗談で言ったつもりが、逆にそれが彼の興味をそそってしまったようだ。


 というか、興味持つか普通……


「悪いが、登校中なんでね。周囲の音が聞こえないのは危ないんだろ?」


 そこで俺は先程の斗真の言葉をそのまま利用させて貰うことにした。


「くっ、ホントこういう所だけは舌が回るよな」


「それとだが、さっきのは冗談だ。そもそもの話、the雑草魂みたいな曲なんて俺は知らないから」


「嘘だったのか……」


 ジト目でこちらを見てくる斗真はさておき、俺は右手で携帯を素早く操作すると、音楽アプリの画面を開いて先程まで聞いていた《 lonely 》のミュージックを見せつける。


「ああ、その有名な曲だったのか。

 それにしてもRoele(ロエル)、人気あるよなぁ……碧が聞いてるのは少し意外だったけど。もしかして彼女のファンとかなのか?」


「いや、別にそうでもねーよ。何となく有名だから聞いてるだけ。斗真も結構聞いたりするだろ?」


「うーん、自分で聞こうと思って聞いた事は一度もないかもしれないな。でも、お店とかでもよく流れてるし、カラオケでもよく歌ってる人とかがいるから、覚えちゃってるって感じかな」


「ふーん、カラオケでもねぇ……」


「なんだよその目は」


「なんでもない、気にするな」


 Roele(ロエル)の曲は基本的にキーが高くリズムもかなり取りにくいため、原キーで歌おうと思うと殆どの男性は無理なはずだ。

 となると、女友達と仲良くしてる可能性が大いにあり得る……というより実際にそうなのだろう。


 ホント羨ましい限りだな。


 そんな会話を始めに、俺たち二人はそのまま他愛もない話を続けながら学校まで歩いていくのだった。

 その際に、興味本位で俺の雑草な心という曲が本当にあるのかと気になって調べて見たところ一件、ヒットしたのはまた別の話……


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