素直になれない皇女ユリーディアと美男将軍との恋。貴方の心に近づきたい。
ユリーディアは生まれながらの皇族である。
美しい金の髪の姫君であった。
歳は18歳。ロッド・ハレスト将軍と言う28歳の婚約者がいた。
黒髪で背の高いロッドは色白で氷のような冷たい美貌の将軍で、彼に惚れたユリーディアが強引に婚約を結んだのである。
しかし、ロッドは婚約を結んだ途端、国境へ警備に行き、まったく皇都に帰ってこなかった。
手紙を送っても返事が来ない。
だからロッドが戻って来た時に、婚約破棄を言い渡したのが先日の事。
結局、ロッドが好きなユリーディア。
ロッドに泣きついて、
「わたくしの事を愛して…わたくしも貴方の事を愛します…」
ロッドも絆されたのか。
「努力をしよう。ユリーディア様。私も貴方を愛するように。」
と言ってくれ、婚約破棄は取り消しになったのだが…
泣きついた日以降、ロッドに会っていない。
父である皇帝に頼んで、ロッドは国境警備と皇宮と一月ごとに交互に勤務になるようになったのである。
そして今、皇宮勤務になったはずで。だったら皇宮にいる自分に会いに来てくれてもいいのではないのか?
まるで会いに来てくれないのだ。
一週間…ユリーディアはイライラして過ごし、そして思った。
ロッドを改めて皇宮の夜会で、婚約者として貴族達にお披露目しようと。
婚約を結んでいたとはいえ、この帝国の英雄は今まで国境へ赴任していたのだ。
改めて、ロッドを帝国の貴族に紹介したい。
ユリーディアは三日後の夜会でロッドを紹介する事にした。
今日はロッドの勤務は休みの日である。しかし、ユリーディアは皇宮の客間に使いを出して彼を呼びつけた。
しばらくして、ロッドが到着したと言うので、
客間に通すように言ってから、ユリーディアは鏡を見て、自分の姿が今日も美しいか確認する。
金の髪をアップにし、白の繊細なレースを沢山使ったドレスを着たユリーディア。
胸にはエメラルドのヘッドの美しい首飾りをして、
客間の扉を開けて、堂々とロッドの前に現れる。
泣きついた日以来の再会だった。
ロッドはソファに座り、長い足を組んで、黒の軍服を着て帽子を被り、
こちらも尊大な態度で待っていたようで。
ユリーディアはロッドの前に行くと、
「わたくしの手の甲に口づけて挨拶なさい。ロッド。」
「何故、そんな騎士見たいな真似をせねばならん。私は将軍だ。
騎士道なんて知らん。」
「わたくしは皇女なのよ。もう少し敬いなさい。敬語を使ったらどうなの?」
「いかに皇女とは言え、10歳も年下の女に敬語を使うなど、軍人としてあり得ない。」
会った途端に喧嘩になった。
不機嫌にユリーディアはロッドの対面に座り、
「命令です。三日後の夜会にわたくしと共に出なさい。皇帝陛下である父や、皇妃である母、わたくしの兄弟たち。そして、貴族達に改めて貴方を紹介します。まさか断らないでしょうね。」
黒の手袋を着用している長い指で自らの顎に手をやって、ロッドはその切れ長の目でユリーディアを見つめ、
「一応、婚約者だからな。出てやろう。」
「貴方…生意気だわ。わたくしがどんなに…貴方に会いたかったか…
少しは褒めなさい。今日のドレスはどう?わたくしは美しい?このペンダントだってお気に入りなのよ。髪だって綺麗に結って毛先を巻いて貰ったの…」
ユリーディアはロッドに訴える。
愛してくれるなら褒めてよ。婚約者なら褒めてよ。
でも、それは言葉にならなかった。
ロッドは立ち上がると、ユリーディアの隣に座り、その顔を困ったように見つめ眉を寄せ。
「ユリーディア様。とても綺麗だ。私の為にお洒落をしてくれたのか…これでいいのか?」
「そうよ。貴方の為にお洒落をしたのよ。とってつけたように言わないで。」
ロッドがフっと笑い、ユリーディアの顎に指を添えて顔を寄せて来た。
あまりにも恥ずかしくて、慌ててロッドの対面に移動してしまう。
「ロッド…。婚約者のうちから無礼でしょう。」
「婚約者だからキス位許されるだろう。」
「いえ。わたくしの心の準備が出来ていません。」
ロッドがため息をつく。
お子様だと思われたのかしら…
ユリーディアは改めてロッドに向かって、
「貴方、夜会用の服は持っているのかしら?」
「軍服を着て行くから必要ない。」
「出かけるわよ。有名な洋服屋があるの。夜会用の服を仕立てている暇はないわ。
既製品でもいいから買いに行きましょう。」
ユリーディアは立ち上がる。
渋々ロッドも立ち上がったようだ。
二人して皇宮の馬車に乗り、洋服店に出かける。
ユリーディアは隣のロッドの横顔をちらりと盗み見た。
なんて綺麗な横顔。鼻が高いのね…
ロッドが視線に気が付いたのか、こちらを見つめ、
「私の顔に何かついているか?」
「綺麗な顔ね…モテるでしょうに。」
「軍務で忙しくてモテている暇が無かった。何か問題はあるか?」
「いえ…」
馬車の窓から差し込む午後の日差し越しに見える帽子を被った彼の前髪が、黒い瞳が日に当たって薄い茶のように見えて、ユリーディアは思わず見惚れる。
ロッドは不機嫌に、
「そんなに見つめられても、私が困る。」
ふいっと彼は窓の外に視線を向けてしまった。
ユリーディアはなんとか会話をしようと試みる。
「ロッドのお父様とお母様はご健在だったかしら?」
「私は孤児だ。育ちも悪い。戦功を立てて公爵になった。元々は平民だ。」
「そうなの…」
「そんな事も知らなかったのか?それで婚約者だなんて笑わせる。」
ユリーディアは手袋をしているロッドの手にそっと手を添えて、
「わたくしは貴方の事をゆっくりとでもいいから知りたいの…
貴方はどんな人生を送ってきたの?ねぇ…教えて…」
ロッドは眉を寄せて、
「話したくない。お前は華やかな人生を送ってきただろうが、私は地を這いずり回って、
ひたすら剣を振るって…話す事など何もない。」
「そう…それなら、貴方は今、好きな事はないの?その腰の剣、素敵ね…」
「剣は好きだ。つい、武器屋があると覗いてしまう程に、実用的な剣から、装飾用の剣まで…剣を手に取るとたまらなく幸せな気持ちになる。」
ユリーディアはにっこり笑って、
「それなら、今度一緒に武器屋に行きましょう。わたくしが貴方に剣を買って差しあげますわ。一緒に選びましょう。」
ロッドは目を見開いてから、フっと笑い、ふいに優しい眼差しで、
「ユリーディア様…有難う。私に寄り添ってくれて。」
「あら。素直にお礼を言われるとかえって気味悪いわ。」
クスクス、ユリーディアは笑う。
ロッドも苦笑して、
「嬉しかったから礼を言ったまでだ。」
ユリーディアはロッドの手を自分の頬に持って行き。
「武器屋の次は、わたくしに何か宝飾品を買って下さいませ。高い物でなくていいの。
貴方からの贈り物が欲しいわ。」
「ああ。約束する…ちゃんとプレゼントするから。」
「約束よ。」
二人が有名な洋服店に着き、
さっそく中に入れば、店長がわざわざ出て来て。
「これは皇女様。わざわざ出向かれるとは珍しいですねぇ。」
ユリーディアがロッドを紹介する。
「この人の夜会用の服が欲しいの。既製品でいいから見繕って持ってきて頂戴。」
店長はロッドを見上げ、
「ロッド・ハレスト将軍様。ようこそ我が洋服店へ。素晴らしい体型だ。
お待ちください。すぐに持って参ります。」
しばらくして何点か店長と店員が服を持ってきてくれた。
「白地に金の夜会服と、黒地に金の夜会服…等…着用してみては如何でしょう。」
ロッドは立ち上がり、
「それでは着用させて貰おうか。」
ユリーディアがいるのにも関わらず、ロッドは着ている軍服を脱ぎ始める。
現れたのは傷だらけのそれでいて鍛え抜かれた逞しい身体。
ユリーディアは思わず見とれてしまった。
なんて素敵な…なんて逞しい…
真っ赤になる。
その時である。バンと扉を開けて、一人の大男が顔を出した。
2mを越える巨漢。黒の鎧を着て、顔は四角く、口ひげを生やし、鼻筋を斜めに横切る戦傷。
そう、彼は隣国の英雄、ゴットシュレスト・ハインリッヒ大将軍である。
「私を待たせるとは何事だっーー。」
迫力のある大音声に店長は真っ青になって、
「これは失礼致しました。今、皇女ユリーディア様と英雄ロッド様を応対しておりましたので。」
上半身服を脱いだロッドとゴットシュレスト大将軍はバチバチと敵意の火花を散らす。
隣国の英雄は、この帝国では敵に当たるのだ。
今こそ和平を結び、国交も出来てはいるが、数年前まで国境でロッド将軍と、ゴッドシュレスト大将軍が率いる軍が何度も戦った。
ロッドは軍服を着直すと、ゴットシュレスト大将軍の前に行き、
「何用でこの国に来た?お前は敵のはずだ。」
「ふん。今は和平も結び、戦は終わっているはずだ。私は皇帝に招かれた客人よ。」
「そうでございますわ。」
鈴の鳴るような声がして、金髪の美しい令嬢が顔を覗かせる。
令嬢は自己紹介をした。
「わたくし、ゴットシュレスト大将軍の婚約者のエリーゼ・レストニアスと申します。
皇女ユリーディア様。この度、皇帝陛下におかれましてはお招きいただき有難うございます。」
ユリーディアも挨拶をする。
「こちらこそ、遠路はるばる来て頂き、感謝致しますわ。」
エリーゼはユリーディアに向かって、にこやかに、
「3日後の夜会では、わたくし、ゴットシュレスト大将軍と共にダンスを披露する予定ですの。ユリーディア様とロッド様の婚約披露の夜会ですもの。勿論。ユリーディア様もダンスを披露して下さいますわね?」
ユリーディアは困った。
自分はダンスは幼い頃から踊ってはいるが、ロッドは踊れるのだろうか?
エリーゼは更に畳みかけて来た。
「まさか、ダンスを踊れないという事はございませんでしょう?皇女様とその婚約者で英雄であるロッド将軍様が。」
ロッドはエリーゼの前に進み出て、
「勿論。ユリーディア様の婚約者だ。私は。ダンスは得意だ。」
「まぁ。それでは楽しみにしておりますわね。」
オホホホと笑って、ゴットシュレスト大将軍と共に、他の店員に案内され別の部屋へ行くエリーゼ。
ユリーディアはロッドに聞いてみる。
「貴方、ダンスは踊れるのかしら?」
「嗜んでいるはずはなかろう。夜会まで後、3日だったな。皇宮に戻るぞ。
店主。服は適当に見繕って皇宮に届けてくれ。」
店長は慌てて、
「せめて採寸させて頂かないと…」
店員数人が慌ててロッドの身体を採寸する。
それに合わせて既製品を見繕い、持って行くことになった。
馬車で急ぎ、皇宮へ戻れば、ロッドはユリーディアに、
「ダンスの得意な貴族を紹介して欲しい。3日間、訓練すれば問題はない。
ダンスは身体で覚える物だろう。私は将軍だ。必ず覚えてお前に恥はかかせない。」
「解ったわ。」
ダンスが得意と言う、レッドモンド公爵を呼び、ロッドにダンスを教えて貰う事になった。
3日間と言う期間に短さに驚くレッドモンド公爵。
しかし、快く引き受けてくれて、
「あのゴットシュレスト大将軍に負ける訳にはいきませんな。これから寝る暇はありませんぞ。ロッド様。頑張りましょう。」
ユリーディアもロッドの相手をし、ロッドはひたすらステップを覚える事に専念した。
夜会で踊るダンスは基本三種類。ステップも難しくそう簡単ではない。それでも、難しいステップをロッドは着々と覚えて行く。
レッドモンド公爵は感心したように、
「なかなか筋がいいですな。皇女様がリードして下さいますから。ともかく当日は皇女様に合わせて。」
「ダンスは男性がリードするものだ。私はユリーディア様より10歳も年上だから、必ず私がリードをする。」
ユリーディアはフフフと笑って、
「楽しみにしておりますわ。ロッド。貴方のリード。」
3日目、一通り、夜会で踊るダンスのステップを覚えた頃、レッドモンド公爵が一人の女性を連れて来た。
女性はにこやかに自己紹介をする。
「セリスティア・アッシーナと申します。この度、夜会で、夫のアッシーナ公爵と共に、ダンスの曲をバイオリンで演奏致しますわ。」
セリスティアは外国の有名なバイオリニストだ。夫のアッシーナ公爵も同じくバイオリニストで、父である皇帝が招いている事は知っていた。
それをレッドモンド公爵が聞きつけて、来てくれるように頼んだのだ。
セリスティアはバイオリンを構えて、
「わたくしが曲を弾きます。ですから、お二人はダンスを…」
「解りましたわ。」
セリスティアのバイオリンに合わせてダンスを踊る。
ロッドはステップを踏むのがやっとのようだ。上手く曲に合わせる余裕がない。
ユリーディアはロッドに向かって囁く。
「わたくしに合わせて…そう…もっと肩の力を抜いて。」
「抜けるか…私はステップを踏むのがやっとだ。」
レッドモンド公爵が、アドバイスをする。
「テクニックも大事ですがダンスは心で踊るのですよ。」
セリスティアもバイオリンを弾きながら、
「さぁ、ユリーディア様の心を感じて…ロッド様の心を感じて…」
ロマンティックな曲が流れる。
一旦、ダンスを止めて、二人は見つめ合った。
ユリーディアはロッドに向かって、
「愛しているわ。ロッド。貴方はどうなの?」
「解らない。ただ、お前に恥をかかせたくないと思った。だからダンスを踊っている。
私はお前にふさわしい男か?皇女様にふさしい男か?
戦が終われば英雄も、ただの役立たずだ。だが私はプライドを捨てたくはなかった。
私は私だ。プライドを捨てたら何が残るのか…
平和な時代に私は必要ではない…
きっと…もう、必要ではないのだ。」
ロッドは膝をついた。
ユリーディアは俯くロッドに、同じく膝をついて、手を添えて顔を上げさせ、その顔を優しく見つめ、頬をそっと手で撫でながら。
「わたくしが貴方を必要としています。それに、軍事を全く捨てるわけにはいかないでしょう?貴方が時には睨みを聞かせて下さらないと…だから泣かないで。
ロッド…泣かないで。」
ロッドはユリーディアを見つめながら、
「私は泣いてはいない。軍人が。男が泣けるか。」
ユリーディアはそんなロッドを優しく抱きしめる。
静かにバイオリンの曲は流れて、二人はしばらく抱きしめ合っていた。
いよいよ夜会の日が来た。
当日は皇帝や皇女、ユリーディアの兄である皇太子や第二皇子、他の皇女達も出席をする。
ゴットシュレスト大将軍もエリーゼも、そしてバイオリニストのセリスティアとその夫のアッシーナ公爵、ダンスを教えてくれたレッドモンド公爵も夫人と共に出席していた。
大勢の貴族達が見守る中、皇帝が皆にまず、ゴットシュレスト大将軍を紹介する。
「隣国と和平がなって早7年。このたびは隣国の大将軍ゴットシュレスト殿と婚約者のエリーゼ・レストニアス公爵令嬢に来て頂いた。」
ゴットシュレスト大将軍にエスコートされエリーゼはそれはもう、華やかな金色のドレスで微笑みながら。
「ご招待預かり有難うございます。」
ゴットシュレスト大将軍も。
「この度の招待、感謝致す。」
二人が挨拶をすれば貴族達から拍手が起こる。
そして、ロッド・ハレスト将軍にエスコートされたユリーディアが次に皇帝に紹介される。
「我が娘とその婚約者ロッド・ハレスト将軍だ。」
白に金をあしらったロッドの夜会服に、天使のような白のふわふわのドレスを着たユリーディア。
ユリーディアが挨拶をする。
「改めて紹介いたしますわ。わたくしの婚約者。ロッド・ハレスト将軍です。」
「ロッド・ハレストです。よろしくお願い致します。」
さすがのロッドもきちっと敬語を使って皆に挨拶をした。
こちらも貴族達が拍手をする。
そして、アッシーナ公爵夫妻にバイオリンに合わせてダンスが催された。
ロマンティックな曲が流れる。
ゴットシュレスト大将軍のエスコートで踊るエリーゼ。
かなり練習をしてきたのか、ゴットシュレスト大将軍の腕前もなかなかである。
逞しいゴットシュレスト将軍のリードで、鳥のように踊るエリーゼ。
エリーゼの金のドレスがキラキラ光って、そこは大輪の花が咲いたようだった。
それを見たユリーディア。
「負けてはいられないわ。ロッド。踊るわよ。」
「了解した。」
二人も広間の真ん中に出て、ダンスを踊る。
ロッドはステップを間違えず完璧にユリーディアをリードしてきた。
白の夜会服がとても似合って、ユリーディアは思わず見惚れる。
「素敵だわ。ロッド。貴方とても素敵…」
「ユリーディア様もとても美しい。」
思わずステップを止めてしまうユリーディア。
褒めてくれたロッドの眼差しがとても優しかったから…
ロッドが顔を寄せて来て、そっと口づけをしてくれた。
ユリーディアは真っ赤になる。
こんな皆がいる所で、口づけなんて恥ずかしい…
そしてなんて幸せな…
周りでダンスを踊っていた貴族達も、ゴットシュレスト大将軍と踊っていたエリーゼも思わずダンスを止めて、皆が二人を見つめる。
エリーゼがホホホと笑って、
「まぁ、お熱いわね。わたくし達ももっとお熱く過ごさないとね。ゴットシュレスト様。」
「うむ。」
ゴットシュレスト大将軍はエリーゼの言葉に赤くなっているようだ。
その時である。
ユリーディアの姉のサリーヌ皇女が近づいて来て、
「ユリーディア。おめでとう。ロッドを射止めるだなんて、この男は女性に興味がないと思っていましたのに。」
憎々し気にロッドを見やる。
サリーヌ皇女は既婚である。ユリーディアとは10歳離れていて、夫であるリヒテル大公が慌ててやってきて。
「サリーヌ。やめんか。」
ユリーディアはサリーヌに向かって、
「お姉様。ロッドと過去に何かありましたの?」
「いえ、何も。何もなかったからこそ、頭に来ているのです。」
エリーゼが扇を口元にあてながら、
「ユリーディア様はロッド様とこのように息のあったダンスを見せて下さいましたわ。
どれだけお二人の心が近くにあるか見せつけられましたのよ。サリーヌ様はロッド様にアピール致しました?過去において。」
サリーヌはギリリと唇をかみしめて、
「アピールしまくりましたわ。わたくし。この男が無視を決め込んでいたのです。」
ロッドはフンと笑って、
「サリーヌ様。戦中で、帝国に余裕が無かった時、どうして貴方の求愛に答える事が出来ようか。」
ユリーディアはロッドに寄り添いながら、
「お姉様は今やリヒテル大公夫人じゃありませんか。今更ですわ。ロッド様は私の物。
諦めて下さいませ。」
サリーヌは不機嫌にリヒテル大公を引き連れて、その場を後にした。
ユリーディアはエリーゼに、
「かばって下さって感謝致しますわ。」
エリーゼは微笑んで、
「当然の事をしたまでですわ。」
再び流れるロマンティックなバイオリンの曲に耳を澄ませながらエリーゼが、
「それはそうと、これからの戦は、剣を交えるのではなくて、こうしてダンスを競うとか、平和な物でありたいですわね。ユリーディア様。」
ユリーディアも頷いて。
「そうね。両国の平和の為にも、ロッド様。ゴットシュレスト大将軍様。どうか、二人で固い握手をお願いしたいですわ。」
ロッドもゴットシュレスト大将軍も相手を見やり、
握手なんてしたくはないのだろう。
しかし、そこへ皇帝が傍に来て、
「ここは抱擁と行こうじゃないか。両国の平和の為に、ガシっと抱擁して欲しい。」
ロッドもゴットシュレスト大将軍もいやいやながら、ガシっと抱擁し、そして固い握手を交わして。
ロッドはゴットシュレスト大将軍に、
「両国の平和の為に…」
「うむ。両国の平和の為に…」
両手で固く互いの手を握り締める。
戦で互いに沢山の仲間を失った。心中穏やかではない相手だ。
しかし、もう、あんな思いはしたくない。
それは帝国民も、隣国の民も全て皆、同じ想いのはずである。
皇帝は満足したように、皆に向かって。
「二人の将軍に拍手を。」
皆が拍手をする。
ロッドはユリーディアの傍に来て、
「ユリーディア様…」
「踊りましょう。まだダンスの勝負の決着はついてはいないわ。」
「そうだな。」
エリーゼもこちらを見てにこやかに微笑んで、
「負けませんわよ。」
二組のカップルは再びダンスを踊る。
華やかなダンスの競い合いは、他の貴族達も加わって、夜遅くまで続くのであった。
後日…ロッドがユリーディアにアクセサリーをプレゼントしたいと言い出して、
二人で宝飾店へ出かけた。
ロッドがユリーディアに髪飾りをプレゼントしてくれて。
ユリーディアは橙の花の髪飾りをして、ロッドに向かって微笑み、
「どう似合うでしょう?」
「さぁ…どうだか…」
「もう、夜会の時だけ素直だったのに…素直に褒めなさいよ。」
「知らぬな。」
二人は店を出て、馬車に乗り込む。
ユリーディアは思った。
それでも、最近、ロッドは微笑んでくれるようになった。
時にはキスをしてくれるようになった…
ゆっくりとゆっくりとこの人に近づいて行きたい。
ユリーディアは馬車の中でロッドの腕に抱き着いて。
「愛しているわ。ロッド。」
「愛している。言わないと不機嫌になるだろう。」
「一言多いんだから。」
不器用で素直じゃない二人の愛はまだまだこれから。
ユリーディアは幸せに浸りながら今日も過ごすのであった。
エリーゼと、ユリーディアは夜会での交流を機に良き友になった。
帝国と隣国の平和な関係は長く続き、両国の国民達は平和を楽しんだ。
夜会のたびに、華麗なダンスを披露するユリーディアとロッドの姿を見かけるようになり、
彼らのダンスの上手さと仲の良さは帝国で有名になった。
踊る二人の姿は銅像になり。長く帝国の皇都の広場に飾られたという。