魔王襲来 その38
「死ぬかと思った」
「危なく握り潰されるところだったじゃん」
「世露四苦!」
ミケラの手から解放された小妖精達が一斉にミケラに文句を言う。
「ごめんなさい」
シュンとなって謝るミケラ。
「まっ、でも助けに来てくれたのは嬉しかった」
「本当に感謝するじゃん」
リーも同意するように何度も頷いたが、何を思ったかミケラの顔の前まで飛ぶ。
「なぁに?」
突然のことに不思議そうに首をかしげるミケラ。
「・・・あ、あ・・・・・・り・・・がと・・・・・・う」
つっかえながらもなんとかお礼を言うとリーはミケラの顔にしがみつく。
「うぉぉぉ、リーが「四露死苦」以外を言うのを聞くのは何十年ぶりだよ」
「奇跡じゃん、凄いじゃん、盆と正月が一緒に来たくらいめでたいじゃん」
突然のことに狂喜乱舞し、抱き合って喜ぶミミとシルゥ。
「一件落着じゃな」
「うん、よかったね」
マオとチャトーミも顔を見合わせて喜ぶ。
「はぁ、負けた、負けた」
そこへチャトーラと虎次郎もやってきた。
「姫様の影移動があそこまで凄いとは知らなかった。はじめから負け確定だったよな」
室外でミケラを捕まえるなど不可能、全員捕まえるのが勝利条件だったチャトーラ達には始めから勝利など無かったのだ。
「タマーリンにちと文句言ってやりたいけど、姿が見えねぇ、どこ行ったか知っているか?」
聞かれてマオが、
「三毛猫柄の老婦人に引きずられていったが、あのタマーリンを引きずっていくとは豪気な御婦人じゃな」
その話を聞いてチャトーラははたと手を打つ。
「そりゃ姫様の母ちゃんだ、タマーリンにお灸を据えると言っていたけど本当だったのか」
「お母様が?」
5年間、タマンサの元で育ち、唐突にやってきたお妃様にミケラはまだ母親だという実感を持てないでいた。
優しくはしてくれるが、厳しい面もあり、頻繁に会うことも出来ないので尚更だ。
「皆さんお揃いで」
気を失って救護所に運ばれていたクロもやってきた。
「おうクロ、身体の方は大丈夫か?」
「はい、神龍ですから身体は頑丈に出来てます」
クロはハハハと笑う。
「その割には気を失ってるじゃんかよ」
チャトーラがツッコミを入れる。
「この身体でいるのは大変なんですよ、僕の元の大きさをご存じでしょ?」
「えっ、と凄くでかかったな」
チャトーラは草原で見たクロの元のサイズを思い出す、天を突くほど巨大な龍だったことを。
「あのサイズの僕がここまで小さくなったら、立っているだけで地面にめり込んでしまいますよ」
と言われても、「そうなの?」と言う顔で顔を見合わせる。
「それに物体を小さく圧縮すると熱を持つんですよ、元の僕のサイズからこの身体まで縮小したら周りの物が燃えるくらいの熱が出ますから」
「あぶねぇな」
チャトーラや周りのみんながぎょっとして身を引く。
「そのためにあれやこれやの魔法を駆使して、万が一僕が気を失っても周りに被害が出ないようにしているんですよ。おかげで防御力激減、チャトーラに殴られてもこぶが出来る始末です」
「なるほど、おめぇも苦労してるんだな」
「判って頂けましたか、これもひとえにお姫様のソバにいるため・・・・・・おひめさまぁぁぁぁ!」
ミケラに飛びつこうとしたクロは虎次郎とチャトーラとチャトーミに張り倒され、再び気を失うことになった。
学習しない神龍に合掌。
「ところで武茶士は?」
チャトーミがチャトーラと虎次郎に聞く。
「そういやあいつ、最初に俺たちと飛び出してから姿が見えねぇな?」
そこへ唐突に二つの影が降ってきた。
一番最初に反応する虎次郎は無反応だ。
「勇者殿ならあちらから」
白い影の方が通りの方を指さす。
「白妙、黒妙」
二人はお妃様を護衛する忍び衆の一員だ。
特にこの二人はミケラを護衛することも多く、ミケラとも顔見知りなのである。
虎次郎が無反応だったのも二人の気配を察していたからだった。
「白妙さ~~ん、黒妙さ~~ん、待って下さいよ」
やがてヘロヘロな武茶士が通りの向こうから現れた。
道に迷って街の外壁まで行ってしまった武茶士を白妙、黒妙の二人がここまで誘導してきたのだ。
「なんだ武茶士、おまえは方向音痴か?」
いきなりのチャトーラの発言に武茶士は一瞬うろたえるが、
「ち、違いますよ。前にいた俺の世界にはスマホという道案内をしてくれる便利な機械があったから、方向感覚が鈍くなっているだけです」
と懸命に言い分けをする。
しかし、後に武茶士は「流離い(迷子)の勇者」と呼ばれることになるのだった。
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