魔王襲来 その35
「どうよ、祭りらしくなっただろ」
「チャトーラの言ったとおりに、ロープ張って提灯吊したら気分盛り上がるな」
「ホント、何か足りないと思ってたのよね」
チャトーラと街の住人達が嬉しそうに吊された提灯やカラフルな布を見上げた。
チャトーラは空からマオが来た時の対策として提案したのだが、街の住人達に喜んで貰えてそれはそれで嬉しかった。
「後は景気のいい音楽とか欲しいよな・・・そうだ、あのマイクって奴で音楽流せないかモモエルに聞いてみるか」
「おっ、それいいね」
「頼んだよチャトーラ」
「おう、任せときな」
安請け合いをしてチャトーラはモモエルのところまで走る。
「モモエル、頼みがあるんだけどよ。そのマイクって奴であそこから音楽流せないか?」
チャトーラはモモエルに掛け合う。
「出来なくはないですけど、ですけど・・・・・・」
あまり気乗りしないようだった。
ミケラ絡みなら「喜んで」と即答しただろうが、やはり秘密の研究品を持ち出した後ろめたさが返事を躊躇させる。
「そんな事言わないでやっておやりなさい、モモエル」
その声を聞いた瞬間、モモエルの動きが固まった。
「あらどうしたのかしら、おほほほ」
声の主は、先程武茶志が道を尋ねた老婦人だ。
「誰だ、あのばあさん?」
チャトーラは不思議そうに突然現れた老婦人を見た。
「バカ、あの方はこの国のお妃様だ」
モモエルの部下の一人が耳打ちする。
「お妃様って・・・姫様の母ちゃんか!」
チャトーラは素っ頓狂な声を上げ、耳打ちした部下は頭を抱えた。
「おまえな」
と言いかけたのを制したのはお妃様だった。
「いいのよ、ケットシーは身分なんて気にしないのが本来の生き方なんだから。わたしもお妃なんて身分、捨てられるモノなら捨ててしまいたいわ」
とニコニコ笑いながらとんでもない事を口にする。
それを聞いてチャトーラは、
「間違いなく姫様の母ちゃんだ」
と確信した。
「そうもいかないところが辛いところよね」
お妃様は困ったように腕組みをする。
「あら、お妃様こんにちは」
「今日もお忍びですか」
「お妃様、お身体の具合は・・・良さそうですわね」
横を通り過ぎる住人達がお妃様に気軽に挨拶しながら次々通り過ぎていく。
「はい、こんにちは」
「うふふふ、ここに居るのは内緒ね」
「ありがと、ホント歳は取りたくはないわね」
お妃様も気軽に返事を返す。
「お、お、お妃様、ご、ご機嫌麗しゅう・・・ご、ご、ございます」
フリーズしていたモモエルがやっと動き出し、ギクシャクしながらお妃様に挨拶した。
「あらあら、なにかしら?そのしゃべり方は・・・何かやましい事があるのかしら?」
お妃様は悪戯っぽく笑う。
「いえいえ、そ、そんな、やましい事など何も・・・・・・」
モモエルはお妃様から目を逸らして否定をする。
「そうよね、重要機密の魔法投影機を持ち出してミケラの鬼ごっこの様子を映し出して、街の方々に見せるなんてしていないわよね」
バレバレであった。
モモエルは唇を噛み締めしばらく固まっていたが、
「すみません、すみません。わたしはどんな罰でも受けますから、部下達は・・・部下達はお許し下さい」
モモエルはペコペコとお妃様に頭を下げ、部下達を庇う。
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