魔王襲来 その32
その頃、リーは時計塔にいた。
時計塔に来るまでに体力の殆どを使い果たしてしまった。
「あと一回だけ」
残っている体力をフル動員しても時計塔から飛び出すくらいしか出来ないだろう。
その一回を成功させる為に、リーは時計塔の影に隠れて少しでも羽を休めるために横になっていた。
「来た」
クロが地面に落ち、マオが時計塔を目指して飛んでくるのが見えた。
クロが起き上がり、再び飛び立つ間にマオは必死になって飛び、クロとの距離をかなり離していた。
「足りない、まだ足りない」
クロの本気のスピードならこの距離でも時計塔に着く前に追い着かれてしまう。
マオは背中の翼に自分の力の送り込めるだけの力を送り込む。
「うぬぬぬぬぅぅぅ」
じりじりと上がる速度、しかし、それでもクロの速度には及ばない。
猛スピードでクロが距離を詰めてくる。
「考えるのじゃ、絶望的な状況でも己が望みを絶たぬのならそれは絶望では無いのじゃ」
力の限り飛びながらマオは現状の打開策を考える。
唐突に頭の中に鼻にブツブツが付いた眼鏡とベレー帽のおじさんが現れ、
「アイディアが必要ならアイディアを差し上げましょう」
と言ってアイディアを提供して消えていった。
「よし、いける」
マオは貰ったアイディアを自分の中で昇華して使える形にした。
既に時計塔は目の前、しかし、クロの手がマオの身体を捕らえようと延ばされる。
「ここ!」
マオは叫ぶと同時に闇の翼を切り離しクロの身体を包み込む。
「なんですかこれは」
闇に突然包み込まれ、視界を失ったクロは焦る。
「手塚先生ありがとう」
翼を失ったマオは落下し、その頭上を闇に包まれたクロが高速で通り過ぎていった。
「戻れ」
地表寸前でマオは闇を戻し、ぎりぎりで止まる。
クロは包んでいた闇が消え、前が見えるようになった目の前に時計塔が迫っていた。
慌てて避けようと上を向いた時、
「今だ!」
と時計塔に隠れていたリーが飛び出してきてクロの顔面に張り付く。
リーに張り付かれ、硬直したクロはそのまま時計塔に突っ込み気を失ってしまう。
クロに張り付いたリーも衝撃で吹き飛ばされたが、大急ぎで駆けつけてきたマオにかろうじて空中でキャッチされ助かる。
「はいクロは気を失ったのでここまで、リーは自分からタッチに行ったので捕まった扱いになりますわね」
側にいた一つ目コウモリが一部始終を見ていたようで、コウモリからタマーリンの判定が聞こえてきた。
「と言う事で、ちびっ子達全員、櫓の下までおいでなさい」
その宣言はミケラの様子を映していた一つ目コウモリからも伝えられた。
「リーが捕まったのか」
「え~っ、どうして?」
「そんな」
その通達はミケラ達は驚く。
「マオを助ける為に自分でクロの顔に張り付いたじゃん、でもクロを撃墜したじゃん」
シルゥがやって来て状況を説明した。
「予を助ける為に済まぬ」
シルゥの後からやって来たマオが頭を下げる。
「それは違うじゃん、リーは初めから覚悟を決めていたじゃん」
そこで初めてマオは時計塔にクロを誘導するように決めたのは、リーの計画だと聞かされる。
「そうか、初めから覚悟を決めておったのか」
リーの覚悟に深く感動するマオ。
(Copyright2022-© 入沙界 南兎)