魔王襲来 その31
「なんじゃ、しばらく逃げ回った後に時計塔を目指して真っ直ぐ飛べじゃと・・・ミミが何か思い付いたのか?」
マオは言われたとおりに建物や家の隙間を縫って巧みにクロの追撃を躱しながら、時計塔に向かうタイミングを計る。
クロの方がスピードが速いので迂闊に真っ直ぐ飛べば簡単に追い着かれてしまう。
羽を壁か何かにぶつけてバランスを崩して墜落したスキを狙うしかない。
「それと先程からリーの奴の姿を見かけぬ、かなり疲れているようじゃったからどこかで休んでおるのかのう」
時折フォローしていてくれていたリーの姿を見かけなくなり、マオは心配になった。
「とは言え、今は人の心配をしておる場合でもないな」
マオは何度かクロに誘いをかけ、羽が壁にぶつかるように誘導する。
しかし、クロの方も警戒しており中々誘い乗ってこない。
「そんな見え見えの誘いに乗るわけ無いじゃないですか」
クロが後方から声をかけてきた。
「神龍よ、女の誘いを断るなぞモテぬぞ」
「僕はお姫様一筋なので他の方のお誘いはお断りですから」
ぶれないクロだった。
「あっ、ミケラ」
マオがあらぬ方を指差した。
「えっ、ほんと」
あっさりと引っかかる。
「どこにもいないじゃないですか」
とマオの方を向いた時にはマオは遙か先を飛んでいた。
「欺しましたね」
怒ったクロは全力で飛び、あっさりとマオに追い着いてしまう。
「やはり、少々引き離した程度ではダメじゃな」
マオはクロの直線での飛行速度に驚くも、冷静に分析をする。
「今度こそ観念して貰いますよ」
クロは慎重にマオとの距離を詰め始める。
「あっ、ミケラ」
マオが再び指を差した。
「同じ手に何度も引っかかりませんよ」
と笑うクロ。
だが、ミケラが道に伸びている影の中から姿を現し、クロが通り過ぎる寸前に黒金で出来た笛を力一杯吹いた。
「あぎゃぁぁぁぁぁ」
ドラゴンにしか聞こえない不快な音に、クロは慌てて耳を塞ぎ、その弾みでバランスを崩して地面に激突してしまう。
「チャンスじゃ」
クロが地面に激突したのと同時にマオは時計塔を目指して全速力で飛んだ。
「頑張ってね」
ミケラは飛んでいくマオの背中に手を振ると、影移動で元いた場所に戻った。
「姫さん、お疲れさん」
戻ってきたミケラをミミが出迎える。
「チャトーミ、ありがとう」
ミケラはチャトーミに借りた笛を返す。
シルゥから連絡を貰ったミミがミケラに、
「マオ達に追いつけるか?」
と聞いて
「追いつけるよ」
という返事を貰いミケラに、
「クロに近づいてこの笛を力一杯吹いて」
と指示を出して送り出したのだ。
空中戦をしているマオ達にあっさりと追いついてしまう、ミケラの影移動恐るべしであった。
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