魔王襲来 その30
その頃マオは、クロと激しい空中戦を繰り広げていた。
「マオ、いい加減諦めたらどうです?僕の方が速いのですから」
クロがマオの飛ぶ少し後方から声をかけた。
「ならば、予を捕まえに来るがよいぞ」
マオは気にせず、家の屋根ギリギリ上を飛び続ける。
確かにスピードは圧倒的にクロが上なのだが、マオの方が小回りが利く。
今、マオを捕まえに突っ込んでも回避されて家の屋根に激突するだけだ。
それが判っているのでマオは余裕で屋根の上を飛び続ける。
「仕方ないですね」
言うなり、クロはスピードを上げてマオを追い越すと急停止してマオの前方を塞ぐ。
「なんの」
マオは咄嗟に身体を捻り、クロとの衝突を回避した。
その時、翼が家の屋根とクロの身体に触れるが、翼はクロの身体を突き抜け、屋根に触れて方は一瞬消えて飛行能力を失うが直ぐに再生してマオの身体を支える。
マオの翼は実体の無い闇で出来た翼なので、何かに触れて消えても直ぐに再生するのだ。
これが障害物の多い街中での空中戦に有利に働いていた。
逆にクロの翼は実体のある翼で、壁や屋根に触れるとバランスを崩してしまい墜落してしまう恐れがある。
そして、影で貢献しているのがリーだった。
リーの飛行能力はマオやクロに比べると大幅に劣る。
二人の空中戦にまともに加わるのは絶望的に不可能だった。
そこで二人の動きを見ながら先回りする事にしたのだ。
先回りして物陰に隠れ、タイミングを見計らってクロの前に飛び出す。
すると、リー達にトラウマを持つクロはリーの姿を見た瞬間、硬直して動きを止め、その後にリーを回避するように大きく迂回をするのだ。
それで何度かマオの危機を救ってきたのである。
しかし、それも限界に来ていた。
小妖精は長時間飛び回るように羽の作りが出来ていない。
元々、花園でゆっくりと花を眺めながら飛ぶ為の羽なのだ。
「もう無理・・・」
羽を動かすのも辛かった、出来ればどこかで羽を休めたかった。
しかし、ここで休んでしまったらしばらく動けなくなるだろう。
「それは嫌」
リーは心の中で叫ぶ。
自分の甲高い声がリーは嫌いだった。
話すのも得意ではなかったので、いつしか「四露死苦」だけしか言えなくなってしまったのだ。
でも、ミミもシルゥも気にしないで自分を受け入れてくれた。
「姫さんだってチャミだって普通にあたいに話しかけてくれる」
ミケラとチャトーミの屈託のない笑顔を思い浮かべる。
だからみんなの役に立ちたい、みんなの力になりたい。
その思いだけで羽を動かし続ける。
そして、ミケラとサクラーノの言い合いをしている上空を通り過ぎた。
ミケラの、
「お姉ちゃんじゃないもん」
と言う声を聞いた気がしたが、疲れ果てた飛ぶのが精一杯だったので気にもとめる事はなかった。
が、唐突に疲れ果てた羽に力が戻ったのだ。
「力が・・・これならあと一回出来そう」
決心したリーは、シルゥに合図を送る。
リーから合図を貰ったシルゥは、今度はマオに合図を送った。
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