魔王襲来 その29
「姫さん達、ここに居たのか」
ミミがミケラ達を探してやって来た。
「チャミ・・・大丈夫?」
チャトーミがミケラにしがみついておいおい泣いているのを見て驚く。
「大丈夫、わたしは大丈夫だから、泣かないでチャトーミ」
なだめているミケラの方もかなり苦しそうに息をしているので、
「姫さんも大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
と返事をしたがあまり大丈夫そうには見えない。
「サクラーノがいたら」
ミケラがぼそっと呟く。
その声を聞いてタマーリンが唇を噛む。
普段は気丈に滅多に弱音を吐かないミケラが弱音を吐いたのだ。
「どいて!わたしを通して!」
突然広場に、明るく元気のいい声が響き渡った。
その声を聞いた瞬間、心配そうに投影機の中のミケラを見上げた住人達の顔が一斉に明るくなったと同時に、住人の一部が暴走する獣から逃げるように大慌てで道から逃げる。
住民がいなくなった道の真ん中を桜色のふわふわの髪をした、ミケラと同年代くらいの女の子が凄い勢いで櫓を目指して突っ走っていく。
モモエルの部下数人が大急ぎで櫓の前にマットレスを立て、その後ろで力を込めて踏ん張る。
女の子は一切減速する事なくマットレスに突っ込むと、支えていた大人ごとマットレスを押し倒した。
「きゃははははは」
倒れたマットレスの上で女の子は一人大笑いをする。
「サクラーノ、この棒に叫べばミケラ様に声が届きます」
飛び込んできたのはミケラの乳姉妹のサクラーノだった。
サビエラが大慌てで走って行ったのは、サクラーノを呼びに行ったのだ。
モモエルが突き出したマイクにサクラーノに大声で話した。
「ミケラ、お姉ちゃんが来たぞ!わたしの妹ならしっかりしろ!」
一つ目コウモリを通して聞こえたその声に、苦しそうに息をしていたミケラがピクッと反応した。
「わたし、妹じゃないもん!」
「わたしの方が三ヶ月早く生まれたんだからお姉ちゃんだ!」
「三ヶ月しか違わないからお姉ちゃんじゃないもん」
「お姉ちゃんだ」
「お姉ちゃんじゃないもん」
二人の言い合いが始まるが、その言い合いを住人達はほっこりした顔で聞いていた。
「ううう、サクラーノのバカ!」
ミケラがついに癇癪を起こして怒鳴る。
「バカって言う方がバカだってお母さん言ってたぞ」
サクラーノに言い返されてミケラは黙ってしまう。
確かにタマンサにそう言われた覚えがあるからだ。
「ごめんなさい」
ミケラは素直に謝った。
「素直で宜しい、流石わたしの妹だ」
「妹じゃないもん」
「妹だ」
再びミケラとサクラーノの言い合いが始まるが、
「あっ、わたし帰らないと。お母さんが心配だから」
と唐突に帰ろうとするサクラーノを、
「もう少しここに居てもいいのよ、タマンサならサビエラが看ているから」
モモエルが引き留めたが、
「やっぱお母さんが心配だから。ミケラ、わたし帰るけど頑張るんだぞ」
そう言い残してサクラーノは来た道を、来た時と同じ勢いで帰って行った。
「ありがとうサクラーノ」
その後ろ姿にタマーリンとモモエルは心の中で頭を下げた。
「あ~っ、姫様元気になっている!」
チャトーミが素っ頓狂な声を上げた。
「それにあたしの足も痛くなくなってる、なんで?」
チャトーミが首を傾げた。
「凄いでしょ、サクラーノはみんなを元気にしてくれるんだよ」
ミケラは少し自慢げに胸を張る。
「凄いね、姫様のお姉ちゃん」
「違うもん、お姉ちゃんじゃないもん。三ヶ月しか違わないからお姉ちゃんじゃないもん」
こだわりは捨てないミケラであった。
その会話にミミは違和感を感じた。
「ここに居るのは姫さんだけでしょ、サクラーノは櫓の下だから関係ないよね」
ミケラ達がいる場所から櫓まではそこそこ離れている。
「姫さんが元気になったのは姫さんが出すあのキラキラの力に似てるけど、チャミの怪我を治すほど強くないし・・・」
ミケラのキラキラの力ではせいぜい元気をなくした人を少し元気にする程度だ。
チャトーミの傷を治すほどの力はない。
「それに今、姫さんの目はキラキラしてなかったし・・・・・・う~ん、謎だ」
ミミは判らなくなってそれ以上考えるのを止めた。
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