魔王襲来 その27
「確か、チャトーミはこっちの方に走って行ったよな」
チャトーラはチャトーミの走って行った方をイメージしながら抜け道を走っていた。
そのチャトーラに遅れて虎次郎が続く。
虎次郎とチャトーラはミケラとチャトーミ担当だが、影移動の出来るミケラを追い回しても振り回されるだけなので、まずチャトーミの方を先に捕まえようという作戦だった。
幾らチャトーミの足が速いと言っても、逃げる範囲が限られ、障害物の多い街中では実力は出し切れない。
それはチャトーラにも言える事だが、逃げる方より追う方が有利と判断したのだ。
「よし、いた」
遙か先に、角を曲がるチャトーミを見つけたのだ。
「予想通りだったぜ」
チャトーミの逃げた方向からチャトーミならこの辺りにいるだろうと予想を立てて近道を通って来たのだ。
「俺はこの街の裏の裏の道まで知っているぜ」
と豪語するチャトーラ。
それに合わせて、チャトーミの性格を知り抜いた双子の兄だか出来た芸当だ。
「じゃ旦那、俺は先回りするんで後頼みますよ」
「うむ」
虎次郎の返事を聞かずにチャトーラは別の方角に向かって走って行ってしまう。
そのまま虎次郎はチャトーミの曲がって行った角を曲がる。
遙か先の方にチャトーミの後ろ姿を見つけた。
虎次郎が走って行っても到底追いつける距離ではない。
だが虎次郎は足を止める事もなく全力で走る続けた。
そして近道を回ってきたチャトーラが、チャトーミの進む方向から姿を現す。
「げげ、兄ちゃん」
チャトーミは急ブレーキを掛けると身を翻して反対方向に逃げる。
身の軽いチャトーミだから出来る芸当だったが、チャトーミの逃げる方向には両手を広げ、道を塞ぐ虎次郎の姿があった。
前門の虎、後門の茶トラである。
「チャトーミ、逃がさないぜ」
チャトーラが全力で迫ってきた。
チャトーミ、ピンチ。
チャトーミよりチャトーラの方が足は速いので、直ぐに追い着かれてしまった。
「追い着いた」
チャトーラがチャトーミを捕まえようとした瞬間、チャトーミの身体が横に動きチャトーラを躱す。
躱すと同時に足を出すと、その足にチャトーラが足を引っかけて、
「ゲフン、ガフン、グエッ」
派手に道を転がっていった。
チャトーラが吹き飛ぶのとほぼ同時に、虎次郎が瞬歩でチャトーミに迫る。
勿論、それもチャトーミはあっさりと躱して足を出す。
虎次郎の足がチャトーミの差し出した足に触れる瞬間、虎次郎はその足に力を込めて踏ん張った。
それは僅かな時間だったが、足を引っかけられて転ぶはずだった虎次郎が一瞬耐えた為、その力がチャトーミの足にかかる。
「いった~~~い」
悲鳴を上げてチャトーミはうずくまり、無茶をした虎次郎もバランスを崩して地面に派手に叩き付けられる事となった。
「いたたた」
チャトーミが痛めた部分を見ると、僅かにこぶになって膨らんでいる。
「我慢すれば走れなくないけど、少し冷やさないと無理かな」
村から村へ届け物をして、思わぬ事で怪我をする事もあるので怪我の具合を見る心得はあった。
「チャト~~~~ミ」
そこへ復活したチャトーラが迫る。
「兄ちゃん、タンマ」
足が痛く、まだ立ち上がれないチャトーミは腰を地面に付けたまま、後ろへとズリズリと下がるが、やがて背中が家の壁に突き当たる。
「やば」
絶体絶命に焦るチャトーミ。
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