魔王襲来 その23
「やりにきぃな」
チャトーラは焦った。
ダメダメだと思っていた虎次郎が思っていたより会場を盛り上げたからだ。
「残ったのは貴方だけよ、早く来なさい」
タマーリンに催促される。
「わぁってるよ、今行くから」
チャトーラは腹を決めてタマーリンの横に進み出てマイクを受け取る。
「あっ、あっ、おお、本当に俺の声が向こうから聞こえる」
「それ、さっきミケラ様がもうやったぞ」
「二番煎じはつまねぇぞ」
あちこちからヤジが飛ぶ。
「うるせぇな、俺だって二番煎じなんてしたかねぇけど。本当に俺の声が向こうから聞こえるんだぞ、凄いと思わねぇか?」
「それは凄いけどな、姫様の真似はダメだろ」
「そうそう、新ネタやれよ」
「銭取れる芸人になれねぇぞ」
再びヤジが飛ぶ。
「うっせぇ、俺は運び屋だ。芸人じゃねぇ!喧嘩売ろうってなら買うぞ」
チャトーラも負けじと怒鳴り返した。
「パラライズ」
そこへタマーリンのパラライズが飛んできて、チャトーラはあっさりと痺れて倒れる。
「ミケラ様が見ているのに、本当に野蛮で困りますわね」
それから武茶志達の方を向いて、
「それをさっさと片して頂戴、少ししたら動けるようになるから」
武茶志達は急いで痺れて動けなくなったチャトーラを舞台下まで運ぶ。
「鬼ごっこスタートまでしばらくありますので、それまで今しばらくお待ち下さい」
突然の事に静まりかえった広場の様子など無視して、タマーリンは進行を進めた。
「兄ちゃん、大丈夫?」
チャトーミが心配して、寝かされているチャトーラの顔を覗き込む。
「な、何とか・・・」
チャトーラは痺れる手足を少し動かし、痺れを取ってからゆっくりと立ち上がった。
「あら、もう動けるようになったの?少し手加減しすぎたかしら」
舞台から降りてきたタマーリンが、動けるようになったチャトーラを見て驚く。
「手加減したじゃないよ、毎度、毎度、パラライズ使いやがって。受ける身にもなってみろってんだ」
チャトーラがタマーリンに怒鳴る。
「あらぁ、貴方がミケラ様の見ている前で喧嘩を買うなんて言うのがいけないのでしょ」
「そうだよ兄ちゃん、姫様の前で喧嘩はダメだよ」
「あれはチャトーラが悪いですよ、挑発に簡単に乗りすぎだと俺も思う」
周りから非難囂々、チャトーラは怒りの下ろしどころを失う。
そして、
「喧嘩はメッだよ」
と最後にミケラにトドメを刺された。
「すみません、俺が悪かったです」
「判れば宜しい」
タマーリンは勝ち誇って高笑いをし、チャトーラはガクッと膝を落とした。
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