魔王襲来 その22
「次は誰がやるんですの?」
タマーリンが催促する。
「それじゃ、僕がやりますよ」
クロが手を上げる。
「は~い、次はクロ。クロも最近来たばかりですけど、武茶志より先に来ているから知っている方も多いでしょう」
紹介され、クロが前へ出る。
「こんにちは、いつもお世話になってます」
クロが壇上に立つと、
「クロちゃん頑張れ~」
「クロちゃん、姫様の次に応援してるぞ」
あちこちからお年寄りの応援の声が飛ぶ。
「おいおい、どうなってんだ?じいちゃん、ばあちゃんの声援が凄いぞ」
「ああそれは」
武茶志が説明した。
「俺の提案で倉庫から足腰が弱ったお年寄りの家に荷物を届けるサービスを始めたんですよ。その配達をしているのがクロなんですけど、割と評判がいいんですよね」
それがクロへの声援の正体だった。
「ありがとうございます、また倉庫をご贔屓に」
クロは声援してくれたお年寄り達に丁寧に頭を下げる。
「クロちゃん、またお茶飲みにおいで」
「お菓子も食べにおいで」
再びお年寄りの声援が飛んだ。
その声に応えるように手を振りながらクロは、チャトーラ達の元に戻ってくる。
「おめぇ、結構お年寄りに人気あるんだな」
「こんな姿の御陰でしょうか、お届け物を届けるとお茶やお菓子を出して頂いて。お茶を飲みながら、世間話や愚痴の付き合いをしています」
クロは黒猫並みに黒いところを除けば顔立ちの整った美少年である、それもお年寄り受けしたのかもしれない。
「本当は僕の方が年上なんですが、可愛がって頂いています」
正体は何年生きたか自分では忘れたほどの長く生きた神龍であるが、クロがはにかむように笑った。
「残りはチャトーラと虎次郎だけだけど、どっちが出るの」
タマーリンが声を掛けてきた。
「旦那、どうします?」
チャトーラが虎次郎と打ち合わせる。
「拙者が行こう」
虎次郎が進み出る。
「虎次郎が次ね」
確かめると、タマーリンは正面を向いてマイクを握り直す。
「はい、次は虎次郎で~す、皆さん知っている通り無口な男だから期待しないでね」
タマーリンの言葉に広場がどっと湧く。
虎次郎が無愛想な表情でタマーリンの横に来る。
「先生、頑張れ!」
「先生、ファイトです」
衛士達から励ましの言葉が飛ぶ。
虎次郎はマイクを手にしたままその声をじっと聞く。
やがて衛士達の声が静まると、
「拙者は姫様の為なら命を賭けられる、姫様が鬼ごっこに参加するなら全身全霊を持って姫様の期待に応えられるように頑張る」
低いが力強い声が広場に響き渡った。
「よく言った」
「流石先生」
「姫様バカ、頑張れ」
広場のあちこちから励ます言葉が飛んできた。
その声に虎次郎は深々と一礼してその場を去る。
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