魔王襲来 その21
「これで女の子チームの紹介は終わりです、次は男の子チーム。ヨロシクね」
と言われてチャトーラとクロは顔を見合わせる。
「宜しくって言われてもな」
「急に言われても何を話していいか」
顔を見合わせるだけで動こうとしない。
「どうしたどうした、チャトーラさっさと出てこいよ」
「クロちゃ~ん、早く出てきて」
広場のあちこちから声が飛ぶ。
「仕方ないですね、俺が行きますよ。こういうのは苦手ですけど、皆さんよりかは馴れていますから」
武茶志が進み出る。
「あら、武茶志、貴方が最初なのね」
タマーリンが微笑みながら手にした棒を握り直す。
「男の子チーム、最初は武茶志。最近この街に来たばかりですが、倉庫で働いているので知っている方は知ってますわね」
タマーリンが軽い紹介をしてから手にした棒を武茶志に手渡す。
「へ~っ、これがマイクか?思ったより細い・・・あっ、俺、異世界から少し前に転生してきて、元いた世界じゃこれをマイクと呼んでいたので」
「異世界?転生?」
モモエルとその配下の魔術師の目がキラ~ンと光った。
「ちゃ、ちゃんと自己紹介します。名前は宮本武茶志、10日くらい前にこの世界に転生してきたばかりです。タレントは最強勇者らしいんですが、いまいち実感ないです。姫様達とこれから鬼ごっこをする事になりました、宜しくお願いします」
武茶志はマイクを手にして深々と頭を下げる。
「勇者様頑張れ~」
「勇者の名に恥じない戦いをしろよ」
衛士達や倉庫仲間から応援の声が上がった。
武茶志が手を振って後ろに下がると、
「かくほ~~~っ!」
櫓の下から走ってきたモモエルと魔術師の一団に取り囲まれた。
「な、なんですか」
焦る武茶志。
「ちょっと、わたくしのおもちゃに何をするのモモエル」
「こんな面白いおもちゃ、独り占めはずるいですわよ」
睨み合うタマーリンとモモエル。
「本人の目の前でおもちゃ呼ばわりは止めて下さいよ」
武茶志が文句を言うと、
「おだまり!」
とモモエルとタマーリンに同時に怒鳴られた。
「はぅぅ」
二人の剣幕に気圧されて少しよろめく武茶志。
背中で支えてくれる手があった。
「わたしがなんとかします」
サビエラだった。
「モモエル様、落ち着いて落ち着いて」
サビエラが武茶志の後ろから前に回って二人から庇うように間に立つ。
「この方の異世界の知識が聞きたいのでしょ」
「う、うん」
コクコクと頷くモモエル。
「なら時間を作って頂いて、後でゆっくりとお話を伺えば宜しいのでは?」
サビエラの提案に、モモエルは口を尖らせる。
「やだやだ、今直ぐ話を聞きたい」
子供のようなだだを捏ねる。
「今直ぐって、貴方、まさかミケラ様の鬼ごっこを見ないおつもり?」
タマーリンに聞かれ、はっと気が付くモモエル。
「わたしとした事がミケラ様のお姿を拝見する事を失念するとは・・・」
モモエルは周りの魔術師達の顔を見回して、
「撤収!」
叫ぶと魔術師達を引き連れて、元いた櫓の下まで走って戻っていった。
「タマーリン様、ありがとうございました」
サビエラはタマーリンに丁寧に頭を下げる。
「宜しくてよ、貴方にはいつも迷惑を掛けていますから、たまには助け船を出さないとね」
と言って笑う。
「迷惑を掛けているという自覚はあるんですね」
サビエラがジト目で見る。
「ほ~ほっほっほっほっ」
笑って誤魔化す。
「もういいです」
サビエラは相手にするだけ無駄とさっと切り替える。
「お騒がせしました、それと後でお話を聞かせて頂くお時間を頂けると助かります」
武茶志に謝罪をしながら、しっかりとアポイントメントを取りにかかる。
「助けて貰ったのは確かだし・・・」
武茶志はしばし考え、
「四日後なら倉庫のお休みなので良いですよ」
武茶志は応じる事にした。
「ありがとうございます、それではお昼前にお迎えに上がります」
「お昼前?」
「はい、ご一緒にお食事でも。モモエルや術者達が喜びますから」
サビエラが爽やかな笑顔で笑った。
その笑顔が眩しく感じ、武茶志は目を逸らす。
「うふふ、それでは四日後のお昼前にお迎えに上がります」
サビエラが武茶志とミケラに頭を下げると、
「待って下さい、モモエル様」
とモモエルを追っていった。
「出来る方だな」
武茶志が感心したように呟く。
「うふふふ、わたくしの使い走りの中ではあの子が一番出来る子よ。これからも仲良くしてあげてね、武茶志。でも、手を出しちゃダメだからね」
しっかりと釘を刺す。
「だ、出しませんよ」
慌てて否定する武茶志。
「あらそう?だって生前は年齢=彼女いない歴だったのでしょ?優秀で可愛い女性が側に来てくれて、チャンスだと思わない?」
しっかりと武茶志の傷口をえぐるタマーリンであった。
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