魔王襲来 その20
「それではミケラ様から宜しいですか」
「うん」
「では、こちらへ」
促されてミケラがタマーリンの横まで来る。
「皆様、これから参加者の皆さんから一言ずつお言葉を貰います。最初はミケラ様です、盛大な拍手をお願い致します」
広間に集まった住人や衛兵達から一斉に拍手と歓声が上がった。
「ミケラ様」
「ミケラ様」
「ミケラ様」
歓声の中、ミケラが壇上の中央に立ち、魔法投影機にミケラが映し出される。
「あ~あ~・・・本当だ、本当にあの箱から声が出てる」
ミケラが嬉しそうに声を上げ、その笑顔が大写しされる。
「生きてて良かった、魔法投影機作って良かった」
モモエルがボロボロと涙を流しながらミケラの大写しを見上げる。
「これから鬼ごっこをします、わたし、鬼ごっこは得意だからみんな見ててね」
ミケラが壇上で手を振ると、割れんばかりの歓声が上がった。
「ミケラ様、ありがとうございました。次はチャトーミ、こっちに来て」
ミケラに代わってチャトーミが中央に進み出ると、若い女性から歓声が上がった。
「チャトーミ、しっかり」
「チャトーミ、ファイト」
「いつも手紙届けてくれてありがと、応援してるからね」
実はチャトーラに内緒で離れて暮らす恋人達の手紙を届けていたのだ。
「やっほ~、あたし、鬼ごっこで男の子に負けた事無いよ。姫様と二人で兄ちゃん達けちょんけちょんにするから、見ててね」
チャトーミは壇上でこれでもかというくらいに大きく両手を振ってアピールする。
「チャトーミ、男なんかに負けるな!」
女性達からさらなる声援を貰ってチャトーミは引き下がる。
「次はマオ、この街に来たばかりなので知らない方が殆どだと思いますが、秩序の女神様に召喚された魔王だそうです。じゃ、マオこちらに来て」
マオは背中に翼を開き、一度空中に浮いてからタマーリンの横に降りる。
「おおっ」
会場に集まった住人達がどよめく。
「よしっ、最初の掴みはバッチリじゃな、何事も最初が肝心じゃからな」
内心で満足げに頷く。
「予は魔王である、魔物の王じゃ。故有ってこの地に召喚された。」
「魔物の王?」
「魔王?」
住人達がざわつく。
「しまった、一般人には魔物の王は重かったか」
観客が引き気味なのを察してマオは切り替えて方針転換を図る。
「魔物の王と言っても予は、そこのミケラとは友人じゃ。予の名前のマオもミケラが付けてくれたのじゃぞ」
「ミケラ様のお知り合いなんだ」
「なんだ、焦って損した」
住人達に安堵の空気が広がる。
「よし、ここでもうひと押しじゃ」
マオはさらに掴みにかかった。
「しかし、予が魔王だからマオというのも安易だと思わぬか?」
「あははは、ミケラ様らしい」
「うんうん、でもそこが良いところなんだよね」
住民達から笑いが漏れる。
「ぶ~っ」
ミケラは壇上で口を尖らせたが、
「姫様可愛い」
「ミケラ様面白い」
かえって住民達に受ける。
「と言う事で、予もミケラと供に戦うので応援を頼むぞ」
マオは再び翼を広げて空中に浮き上がると、手を振りながら広場を一周してミケラの横に降り立つと、ミケラの腕を掴んで一緒に手を上げる。
広場が一斉に沸き立った。
「よっし、掴みはバッチリじゃ」
マオは意気揚々と壇上を降りた。
「ちょっとやり過ぎじゃないか?」
チャトーラが声を掛けてきた。
「いいんじゃ、予はこの街では新参者。せっかくこういうチャンスを貰ったのじゃ、ここでしっかりとアピールしておけば受け入れられやすいじゃろ」
「そんなもんなのか?」
チャトーラはマオの言っている事がいまいち理解出来ずに適当に相づちを打つ。
「はい、次はこの子達」
タマーリンが後ろを振り向き、ニコッと笑うがその目は全然笑っていなかった。
「ちっ、仕方ない行くぞ」
ミミ達は諦めて壇上の中央まで飛ぶ。
「わたしがこれ持つね」
ミケラが小妖精達の為に声を拾う棒も持ってかざした。
「姫さん。ありがとう」
「ありがとうじゃん」
「四露死苦」
ミミは深呼吸をすると、
「あたい達も参加する事になったから応援よろしく」
ありったけの声を張り上げて叫ぶ。
「ミミちゃん、頑張れ!」
「姐御達、ファイトっす」
広場のあちこちからミミ達を応援する声が飛んだ。
「ミミ、しっかりおやりよ!」
最後に倉庫の女将さんの声が広場に響き渡り盛り上がる。
「ありがとう、ありがとう」
「ありがとうじゃん」
「四露死苦」
小妖精達は集まっている住人達に愛嬌を振りまいて元いた場所へと戻っていった。
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