魔王襲来 その18
(Copyright2022-© 入沙界 南兎)
「そ、そんな、みなさんは僕の事をそんな目で見ていたんですね」
ヨヨヨと泣き崩れるクロ。
「うふふふふ、そうね、慰めてあげますからこちらにおいでなさい」
タマーリンがクロにおいでおいでとする。
だがしかし、それは罠だというのはクロは直ぐに気が付く。
「えっ・・・タマーリンが僕の事を、絶対にあり得ないです」
クロは逃げようとしたが、逃げる先にファイヤーボルトが打ち込まれ火花が散る。
「ひぇっ」
瞬間的に固まるクロ。
「早くいらっしゃい」
振り返ると、絶対に逃がさないとタマーリンの目が語っていた。
今のファイヤーボルトはあくまでも警告。
本気で逃げようとすれば容赦なくパラライズでのたうち回る羽目になるだろう。
「いや、あの」
クロは助けを求めて周りを見たが、ミケラ以外の全員が慌てて目を逸らす。
クロに逃げ場も助け船も期待出来ない、いわゆる万事休すの状態だと悟った。
「トホホホ、判りました、今行きます」
クロは覚悟を決めてタマーリンの方へトボトボと歩き始めた。
クロが近くまで来ると、タマーリンは懐から笛を出すと力一杯吹く。
「グゲェゲギグガァァァァ」
クロが突然耳を押さえてもだえ苦しむ。
「なんだ、どうしたんだクロは?」
「どうしたんだろうね兄ちゃん?」
突然クロが苦しみだしたので何事かと顔を見合わせる。
「フフフ、どうですかクロ?」
「なんなんですか、今の音は」
タマーリンが笛を吹くのを止めると、クロがはぁはぁと肩で息をしながら立ち上がった。
「これは対ドラゴン要に開発した笛ですの」
タマーリンは紐に吊した鈍い輝きを放つ黒金色の笛を見せる。
「ドラゴンの嫌がる音を出すんですのよ。ただ、もの凄く近距離でないと効果が無い上に、遠くからでは逆に暴れてしまうので今まで使い道がなかったのですよね」
タマーリンはクフフフと笑う。
「こんな所で役に立つとは思いませんでしたわ」
高笑いするタマーリンを見てクロは思わず後ずさりした。
「因みに、ここに居る衛士全員にこの笛を持たせてありますので、貴方がミケラ様に近寄れば遠慮無く笛を吹きますわよ」
「タマーリン、あたしにもその笛貸して」
チャトーミが手を上げる。
「姫様はあたしが守るから」
「俺も、俺にもくれ」
チャトーラも手を上げた。
「あなた達は・・・」
クロがジト目で見たが、完全に無視される。
「まだまだありますから、必要な方には配りますわよ。必要な方は手を上げて下さいね」
クロ以外の参加者全員が手を上げた。
流石にこれではどもどうにも出来ないとクロは悟った。
「はい、判りました」
とガクッと肩を落とす。
こうしてクロの野望は潰えたのであった。
めでたし、めでたし。