魔王襲来 その15
「面白い、一つ目コウモリだよ姫様」
「わぁ面白い」
チャトーミとミケラも興味津々にモモエルの手にしている、一つ目コウモリの人形を見ていた。
「これ飛ぶの?」
ミケラがモモエルに聞く。
「勿論ですわ」
モモエルは言うが早いか、設置作業に参加していなかった魔術師の一団に合図を送る。
一団の中から一人が前に進み出てきて、ミケラに恭しく挨拶をした後に杖をかざし、
「はっ」
と気合いを発する。
するとモモエルの手の中の人形が羽ばたきを始め、宙に浮き上がる。
モモエルは直ぐさま、櫓の下にいる一団に合図を送った。
櫓の上に設置されたパネルに明かりが灯り、パネルに宙を飛ぶコウモリを見上げるミケラ達の姿が映し出された。
「おおっ!」
街に散っていた者達の話を聞いて広場に集まりだしていた他の街の人たちが、歓声を上げた。
「大型テレビに空飛ぶカメラ、俺の元いた世界でも最近やっと一般的になったのに。魔法って凄いんだな」
武茶志も驚きの声を上げる。
「うふふふ、魔法って凄いでしょ?ところで武茶志、私のところに一度も顔を出していないのは何故かしら」
その声を聞いた瞬間、武茶志は全身から冷や汗を流す。
「あ、あの、し、仕事が忙しくて、行こうと思っていたんですよ。馴れない世界で慣れない仕事をすると疲れも半端なくて」
武茶志はしどろもどろの言い訳をする。
「あら、あら、その割には虎次郎と剣の修行をしておいでのようですけど」
タマーリンは意地悪く笑う。
「全部ばれてる」
武茶志は内心で、この場を切り抜けるいいわけを考えたが、考えれば考えるほど空回りして何も思い付かなくなる。
「ほほほほ、貴方をいじめるのはこれくらいにしておきましょう」
タマーリンは高笑いをして去って行った。
「でも、魔法は覚えておいた方が貴方の為よ。貴方が何故この地に呼ばれたかいずれ知る事になるでしょうから」
立ち止まり意味深な事を言ってタマーリンはミケラ達の元に歩き去って行った。
「俺がこの地に呼ばれた理由?猫神様が転生してくれただけではないの?」
武茶志はタマーリンの残していった言葉に首を捻りつつ、心に妙な引っかかりを感じた。
「今は考えても仕方ないか」
今は不慣れなこの世界で生活をこなすで精一杯なのだった。
「すっげえなあれ、あのコウモリが見ているをあそこに映すのか」
チャトーラは櫓の上のパネルに映るチャトーミやミケラの姿を興味深げに見比べた。
「うふふ、凄いでしょ。作るの凄く大変だったのよ」
モモエルはみんなが喜んでくれているのを見て嬉しそうに笑う。
「あんたが作ったのか?」
先程のミケラに対する奇行からは信じられないという顔でチャトーラはモモエルを見る。
「わたし、王宮で魔法道具研究所の所長をしていますのよ。あの装置も所員一同の汗と涙の結晶ですわ」
「てことはあれ、大事なモノじゃないのか?」
チャトーラの指摘にモモエルはギクッとする。
「そ、それはと、とても大事なモノで、ですわよ」
完全に目が泳いでいる。
この時点でチャトーラはこいつ、何かやらかしたなと察した。
(Copyright2022-© 入沙界 南兎)