魔王襲来 その10
「タマーリン様お呼びと伺い、衛士隊参上致しました」
工作部隊を連れた衛士隊が到着した。
「待っていましたわ、早速お願い出来るかしら。工作部隊はここに櫓を建てて下さる。衛士隊はこれから街の中でミケラ様が鬼ごっこをしますので、街の方が邪魔しないように見張っていて下さい」
それからタマーリンは衛士隊の隊長と工作部隊の隊長に細かな打ち合わせに入る。
その間、ミケラ達は暇を持て余す。
「武茶志、来い」
突然、虎次郎が武茶志を呼んだ。
「なんですか、虎次郎」
虎次郎から自分を呼ぶなんて珍しいなと思いながら顔を向ける。
「暇なら稽古をするぞ」
武茶志はこの街に来てから虎次郎に剣の稽古を付けて貰っていた。
「いいですよ、暇ですから付き合いますよ」
武茶志は快く応じた。
「うむ、では準備する」
虎次郎は工作部隊の方に行くと、ショートソードほどの長さの二本の棒を持って戻ってきた。
片方を武茶志に手渡す。
手渡されたのは厚紙を何枚も折って重ね、持ち手側をノリで固め布を巻き、反対側は扇形に開いたモノだった。
いわゆるハリセンだ。
最初、武茶志もハリセンかよと驚いたのだが、いざ虎次郎に稽古を付けて貰って納得。
虎次郎が強すぎるのだ。
ハリセンでもまともに食らうとあっさり吹き飛ばされる。
これが木刀だったら命が幾らあっても足りない。
「では」
互いにハリセンを構える。
「いつでもいいぞ」
稽古は虎次郎が構え、武茶志がそれに打ち込む事で行われていた。
「じゃ、行きますよ」
武茶志はハリセンを両手で構えてじりじりと間合いを詰める。
下手に突っ込むとスキを呼ぶのは散々、虎次郎に打ちのめされて身に染みていた。
とは言え、ただ間合いを詰めただけではダメだ、時には後ろへ引き、右へ左へ等のフェイントを掛けながら次第に間合いを詰める。
「先生と武茶志が稽古しているぞ」
隊長とタマーリンが打ち合わせをしている間、衛士達も暇を持て余していた、暇つぶしに虎次郎と武茶志の稽古の見物に集まる。
虎次郎も武茶志も相手に集中していて、周りの事など眼中にない。
武茶志のフェイントに対して虎次郎は微動だに動かない。
武茶志は微動だにしな虎次郎に付けいる隙が見いだせなかった。
「仕方ない、いくか」
呟くなり武茶志は虎次郎に地を蹴り一瞬にして間を詰めると上段から切り込む。
ハリセンとは思えない素早く重い一撃が虎次郎を襲う。
虎次郎は僅かに身体をずらして切っ先ギリギリで躱すが、武茶志は振り抜いたハリセンを更に横になぎ払い虎次郎の胴を狙う。
だが虎次郎はそれも僅かに身体をずらしただけでその横払いも躱す。
「ダメか」
躱された瞬間、武茶志は勇者のタレントで強化されたジャンプ力を使って後方に大きくジャンプした。
「甘い」
後ろへ飛んだ武茶志を瞬歩で虎次郎が追う。
着地した瞬間に合わせて追い着き、無防備になっている胴にハリセンを振り抜く。
スパーン
ハリセンの音が響き、武茶志の身体が吹き飛んだ。
武茶志の身体は結界で守られている、そして虎次郎が手にする得物はハリセン。
にもかかわらず武茶志の身体はあっさりと吹き飛ばされた。
吹き飛んだ後、武茶志は激しく地面に叩き付けられその場で動かなくなる。
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