魔王襲来 その7
「そこの貴方、顔を上げなさい」
最初、気が付かなかったが、チャトーミに肩を叩かれて自分の事を言われているのだと気が付きマオは顔を上げる。
「何を泣いているのですか?」
言われて、マオは自分の目の周りを触る。
「な、何を言う。予は・・・予は泣いてなぞおらんぞ。これは目にゴミが入っただけじゃ、ゴミが入っただけじゃからな」
慌てて目の周りの腕で拭い、地面に書いたのの字も消す。
「うふふふ、貴方可愛いわ」
タマーリンが怪しい含み笑いで笑う。
マオの背中にぞぞっと虫が這いずったような感覚が走った。
本能が「こいつは危険だ」と囁く。
「こ、こいつやばくない?」
マオはミケラに聞く。
「タマーリン?タマーリンは優しいよ」
ミケラがキョトンとした顔で返事をする。
「いやいや、タマーリンが優しいのは姫様だけですから」
と周りで話を聞いていた者達は一斉に心中でそう突っ込んだのだった。
「何だよ、今の光と音は」
「びっくりしたじゃん」
「四露死苦」
そこへ小妖精達がやって来た。
「何じゃこやつらは、怪しい奴らじゃな」
「怪しいのはお前の方だ、なんか怪しい気配を身体から出ているぞ」
ミミはマオの身体から出ている気配を感じ取っていた。
「怪しい?当然じゃ、聞いて驚くでないぞ。予は魔物の王、魔王じゃ」
そしてマオはビシッとミミ達を指差し、
「羽虫ども、魔王である予にひれ伏すがよい」
と叫ぶ。
小妖精達は空中で一斉にマオにひれ伏した。
「な、なんだ、身体が勝手に動いたぞ」
「何でじゃん」
「よ・・・四露死苦?」
ひれ伏した後、焦りまくる小妖精達。
「お前ら本当に妖精か?」
疑わしそうに聞くチャトーラ。
「ううっ、自信無くなってきた」
戸惑うミミ達。
「それにしても、さっきの光と音は何だったのでしょうね」
武茶志がふと疑問に思った事を口にした。
「そうじゃ、さっきの光の御陰で予の纏っておった闇が霧散してしまったのじゃ。どうなっておるのじゃミケラ」
光の発生源だったミケラに詰め寄るマオ。
「わ、わたし、知らない」
「そうだよ、姫様だって光を見て目を回していたじゃない」
ミケラを庇うチャトーミ。
「それもそうじゃな、知っておったら目を閉じれば良いわけじゃからな」
目を閉じていたチャトーミは目がくらんだのは一瞬だけだったのを見れば、確かにマオの言う事も一理ある。
「あ、あの。多分それは僕の所為か・・・なと?」
おずおずと手を上げるクロ。
「またお前がやらかしたのか!」
いきなりクロの頭を殴るチャトーラ。
「いきなり痛いじゃないですか」
「あの光の所為で俺や旦那が目を回してたんだよ、その間に姫様に何かあったらどうすんだよ」
「パラライズ」
タマーリンのパラライズでのたうち回るクロ。
「こ、こいつ、神龍だぞ!いいのか?」
突然の事に焦るマオ。
「いいの、いいの。クロだから大丈夫」
「いつもの事だよね、兄ちゃん」
あっけらかんと笑う、チャトーラとチャトーミ。
タマーリンも「ふん」と鼻先で笑って終わりだった。
「多分、ミケラ様にクロが結界を張ったのでしょう」
結界と聞いてチャトーラは閃く、
「武茶志のあれと同じ奴?」
武茶志の方を見る。
「俺の身体を守っているあれですか?」
半信半疑で武茶志はタマーリンに尋ねた。
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