魔王襲来 その6
武茶志に向かってビシッと指差すマオ。
「せ、成敗って、俺を殺しに来たの!」
焦る武茶志、いきなり成敗すると言われれば驚くのも無理はない。
「こ、殺すとは誰が誰をじゃ」
しかし、逆にマオの方が焦りまくっていた。
「魔王が勇者を成敗するって言ったら普通、命を奪うって事じゃないの?」
「えぇぇぇぇっ、そうなのか!」
マオは驚きの声を上げた。
「そうなのか?」
近くにいるミケラとチャトーミに聞く。
「わたし、わかんない」
「あたしもよくわからいよ」
ミケラもチャトーミも首を傾げた。
「でも痛いのはダメだと思う」
ミケラの言葉にマオは我が意を得たとばかりに顔が輝く。
「そうじゃ、痛いのはいかんのじゃ、痛いのは。相手が悪い事をしたからと言って痛い思いをさせてはいかんのじゃ、予は平和を愛する魔王じゃからな。わ~はっはっはっはっ」
高笑いをしながら魔王らしからぬ事を口にするマオであった。
「でも、この世に仇なすなんて誰に聞いたんですか?俺、この世界に来て10日しか経ってないので悪い事なんて何もしてないのに」
武茶志はミケラ達に街に連れてこられてからは、仕事を探して、見つけた仕事を真面目にこなす以外は何もしていなかった。
「予が爆誕した際に、頭の中に
「この世の秩序を乱し、世界に仇なす勇者を成敗するのです」
と響いたのじゃ」
「秩序ですか?僕に思い当たる事があります」
秩序という言葉にクロが反応した。
「あなたを誕生させたのは秩序の女神の仕業だと思いますよ。秩序の女神と猫神は仲が良くない、先日も、鯛焼きを頭から食べるか尻尾から食べるかで喧嘩になって、危うく世界が一つ消滅するところでしたよ」
黒羽はハハハと笑う。
「猫神が勇者を召喚したのに対抗してでしょうね、猫神への嫌がらせで魔王である貴方を誕生させたのではないかと」
その話を聞いて一番ショックを受けたのはマオであった。
「い、嫌がらせ?予は・・・予は・・・予は・・・ただの嫌がらせの為にこの世界に誕生させられたのか・・・」
しゃがみ込んで指でのの字をいじいじと書き始める。
「マオちゃん、マオちゃん、大丈夫?」
ミケラがマオの横に来て座ると顔を覗き込む。
「ミケラか・・・予は、これからどうしたら良いのじゃろう」
マオは目に涙を一杯溜めてミケラの顔を見る。
「大丈夫、いい子、いい子」
ミケラはマオの顔にぎゅっと抱きつくと頭を撫でた。
マオはしばらくミケラに頭を撫でられる任せた。
「どうしよう兄ちゃん、この子」
チャトーミは話しについて行けなかったが、マオが泣きそうな顔になったのでチャトーラに相談する。
「どうしようって、姫様がこのままほってとくわけねぇだろ、俺たちも一肌脱ぐしかねぇよな」
溜息交じりにチャトーラは腕を組む。
「話は聞かせて貰いましたわよ」
その声を聞いた瞬間、チャトーラは嫌そうな顔をして声のした方を見る。
一段高いところに立ち高笑いをしているタマーリンがいた。
「とぉ」
タマーリンは飛び降りると、しゃなりしゃなりと歩いてきてミケラの横に立つ。
「ミケラ様」
声を掛けられてミケラは顔を上げる。
「タマーリン」
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