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ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 50

 キマシは独自に短縮詠唱を開発し、タマーリンの家に転がり込んでからタマーリンの指導で更に磨きをかけたのだ。


「ファイヤー」

 唱え腕を振るうと、広げたてのひらからピンポン球程の火の玉が飛ぶ。


 火の玉は途中で四つに分裂し、釜の中に均等に着弾し積まれた木っ端に火を付ける。


「詠唱速度も命中精度も随分良くなりましたわね」

 最近はミケラに会いに出かけている事が多く、キマシの面倒をあまり見ていなかったので、久しぶりに見たキマシの上達ぶりを素直に誉めた。


「へへへ、誉められた」

 嬉しそうに笑うキマシ。


 ここのところ自主練習が多いが、その前は出来ないとおやつ抜きという過酷な練習の日々だったのだ。


 ギリとレッドベルが美味しそうにおやつを食べている横で、キマシは何度血の涙を流した事だろう。


「これもタマーリンさんの指導のタマモノです」

 浮かれて言わなくてもいい事を言ってしまう。


「あらそう、それではまたわたくしが指導しましょうかしら。出来なければ、当然おやつ抜きで」

 にやっと笑うタマーリン。


「ひえぇぇぇ」

 その笑みを見え怯えるキマシ。


 タマーリンは人の嫌がる事を一瞬で見抜く天才。


 キマシにはおやつ抜き、目のまで他人が食べているのを見させるのが一番きついと見抜かれていた。


 はっきり言って鬼である。


ー・-・-・-・-


 ドドンゴ達は網で干しておいた魚を干した順に、釜の上の網に乗せて焼き始めた。


 釜から、魚が焼ける匂いが漂い始める。


「おお、いい匂いだな」

 そこへ網を手にしたクロッポとプラオが帰ってきた。


 湖に設置した網を回収していたのだ。


 網は綺麗に畳まれてクロッポとプラオの腕にかけられていた。


 ドラゴンの大きい手で、尚且つ空中でこれをやるにはかなりの熟練が必要だろう。


「干しておくぞ」

 クロッポ達は回収してきた網を、今度は丁寧に網干しへと掛けていく。


「ボクさ、あれはちょっと無理さ」

 ライリュが、クロッポとプラオが器用に手にした網を網干しに掛けていく様子を、目を丸くして見ていた。


「おいらも無理だった、クロッポさんとプラオは器用だからね」

 キャメルは自分の手を見て溜め息をつく。


「俺だって、最初はうまく出来なかったぞ。網なんて百枚近く破ったかな」

 聞こえたのか、クロッポがガハハハと笑う。


「クロッポさんでもそんなに」

 思わぬ話を聞き、驚くキャメルとライリュ。


「誰だって初めからうまくいかないさ、要は出来るまで頑張れるかどうかだけだな。向き、不向きもあるから向かないのに頑張り続けるのもなんだけどな」

 クロッポの深い話しに、


                       (Copyright2025-© 入沙界南兎いさかなんと)

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