ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 49
ドドンゴは魚を次々と捌いていき、隣では捌いた魚を受け取ると水洗いして次に渡し、次では開いた方に塩と草を刻んだモノを振りかけていた。
そのまた隣では、塩と草の粉を振った盛んを魚を取ると開いた方を上にして、次々と魚を網の上に乗せていく。
網が一杯になると、その網を別のところに持っていき、新しい網の上にまた魚が並べられていく。
最初、顔を引き攣らせて見ていたミケラとサクラーノだったけれど、いつまで経っても終わりそうもないのでキャメルを見上げた。
「あれはね、おいら達が食べる分を作っているんだよ」
「ドラゴンさん達が食べる分?」
「お魚、食べるの?」
ミケラとサクラーノが不思議そうな顔でキャメルを見た。
「おいら達の手ってこんなだろ?」
キャメルが大きな手を広げてみせる。
「料理なんて出来ないから、食べ物はみんな生で食べてるんだ。
でも、料理の味を知っちゃうと生で食べても美味しくないからさ」
えへへと笑うキャメル。
ドドンゴ達が捌いている魚は、キャメル達ドラゴンに食べて貰う為の魚だったのだ。
「よし、魚の準備はこんなモノか」
今回獲った魚の殆どを捌いてしまい、ようやく終わったようだ。
「よし、次は火の準備をしろ」
「へい」
ドドンゴの手下達が小屋の横にある、草の山に走って行った。
それは大きな釜に上から草を被せて、蓋をしたモノだったのだ。
上に被せた草を剥ぐと、下から小屋と同じくらいの広さの釜の上に金属の網が乗せられたモノが出てきた。
釜の中はキレイに掃除されていて、手下達は木っ端を中に積み上げると火打ち石で火を付けようとする。
が、うまくいかない。
「おまちなさい」
タマーリンがそれを止めた。
「そこに火を付ければよろしいのかしら?」
「ああ、そうだ」
ドドンゴの返事を聞いて、
「むふ」
と笑うタマーリン。
「キマシ、おいでなさい」
キマシを呼ぶ。
「タマーリンさん、なんですか」
呼ばれてひょこひょことくるキマシ。
「あそこの火を付けて差し上げて」
釜を指し示す。
「あそこですか?いいですよ」
頷き詠唱を始めようとするキマシを、
「おまちなさい」
慌てて止める。
「そこの方達、危ないですからお下がりなさい」
釜の中にまだドドンゴの手下達が入っていたのだ。
そんなのをお構いなしに詠唱を始めたので、キマシを止めたのだった。
「もういいですわ」
タマーリンから許可が出て、キマシは詠唱を始める。
詠唱と言っても、知らない人が聞いたら何かぼそっと呟いたようにしか聞こえない程ごく短いモノだった。
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