魔王襲来 その4
「チャトーミ大丈夫?」
武茶志がチャトーミに声を掛ける。
「うん、あたしは大丈夫だよ。さっきの光で少し目がしばしばしただけだから」
チャトーミは何事もなかったように元気に返事をした。
「そ、そうか良かった」
武茶志はチャトーミから目を逸らすように返事をする。
この街に来た時に、三日ほどチャトーラ達の家に世話になった。
チャトーラ達の家は食堂兼居間と寝室の二部屋しかなく、武茶志は居間の方に寝床を作って貰いそこで寝る事になった。
驚いたのは、チャトーミが家にいる時はパンツ一枚で歩き回る事だった。
チャトーラに連れられて家に入った時も、チャトーミはいきなり服を脱ぎだしてパンツ一枚になってしまったのだ。
「チャトーミ、武茶志がいるんだぞちょっとは考えて行動しろよ」
とチャトーラに怒られても、
「平気、平気。あたしのおっぱいちっちゃいから毛に隠れて見えないよ」
と振り向いた時、小さな膨らみが胸の毛から顔を出していたのが見えて武茶志は目のやり場に困った。
「ほら見ろ、武茶志だって困ってるだろ。とにかく服着ろ!」
とチャトーラに怒鳴られても隣の部屋にさっと逃げて、
「ベーだ」
扉の影に隠れて舌を出すとそのまま扉を閉めてしまう。
「わりいな、色気のない妹で本当に困るぜ」
チャトーラも呆れ果てていた。
結局、世話になった三日の間、チャトーミは武茶志の前でもパンツ一枚で過ごし通したのだった。
その事を思い出して少し気恥ずかしくなったのだ。
「おや?」
マオは頭の上に伸びた毛が武茶志の方を指しているに気が付く。
勇者アンテナが武茶志に反応したのだ。
「貴様、勇者か!」
マオは叫び声を上げ走り出そうとした、
「まだ動いちゃダメ」
女将にガッチリと押さえ込まれる。
「う、動けぬ」
女将に掴まれてマオはびくとも動く事が出来なかった。
「倉庫の近くで女将さんに逆らうのは無理ですよ」
クロが溜息交じりに言う。
女将のタレントは荷物の守護者、荷物属性のモノが近くにあるほど力を増す超レアなタレントだ。
大量の荷物を扱っている倉庫近辺では女将はほぼ無敵であった。
豪胆な性格もあったがそれ故に街では一目置かれる所以である。
若い頃はその能力を買われて人間の街に行く隊商の護衛をやっていたそうだが、彼女の姿を見ただけで盗賊が逃げ出したと言う逸話すらある。
今でこそ歩くビア樽の様の容貌だ、昔はかなりの美人だった。
隊商の護衛で倉庫にも頻繁に出入りしていて、見初めたのが当時の倉庫の若旦那。
女将もまんざらではなかったようで、二人は恋に落ち、結婚してしばらく幸せな生活が続いたが、夫は流行病で亡くなり、それ以来、女将が一人で倉庫の切り盛りをしてきた。
「予は魔王じゃぞ、魔王じゃぞ、魔王なんじゃ」
マオは半分泣きそうになりながら、女将のなすがままになるしかなかった。
逆らおうと少しでも動けば、たちどころに女将に押さえ込まれて逆らう事が出来なかったのだ。
「や、闇があれば」
マオが纏っていた闇はミケラから発生した光によって霧散してしまった。
闇が無いとマオは力の殆どを使う事が出来ないのだ。
力が使えない以上、大人しく従うしかなかった。
「はい、終わったよ」
ただの白い布だったモノが、女将の手により見事な服へと変貌していたのだ。
「おお、なんか良いなこれは」
マオは驚きの声を上げながら嬉しそうに何度もヒラリヒラリと回る。
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