ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 34
「疲れて・・・ですの?」
思わない話しに、軽く驚くタマーリン。
「昔は里を飛び出して悪さする奴もいたんだけどな、今は神龍様の封鎖を乗り越えて飛び出していっても、悪さする元気もないからさ」
クロッポがガハハハと笑う。
「あら、わたくしは疲れて弱っているドラゴンを追い払っていた事になるのですわね」
タマーリンがフッと溜め息をついた。
「構わん、構わん。神龍様の気持ちも判らぬイタズラ坊主共だ、お灸を据えてくれて感謝しているくらいだぞ」
クロッポは再び豪快に笑った。
「あら、それならこれからも遠慮なく追い払わせて頂きますわ」
ふふふと良い笑顔で笑うタマーリン。
「そうかお主が若い連中が言っていた、ケットシーの凶悪魔女か?」
タマーリンをじっと見つめるクロッポ。
「あら、ここではわたくしをそんな名前で呼ばれてますのね。先ほども村長さんが、わたくしの名前に怯えてましたわ」
名前を聞いただけで、怯えた表情をしていた村長の事を思い出す。
「済まんな、あんたに追い返された若い連中があれこれ言ってな、それに尾ヒレが付いてしまったようだ」
人の噂などいい加減なモノで、最初は小さい愚痴程度の話が尾ヒレが付き、言った本人が驚く程の話になっている事はよく有る話なのだ。
自分はそんなつもりは無かったと言っても後の祭りなので、人の悪口は言わない方が身の為、自分の為だったりする。
「わたくしの悪口を言ったらどうなるか、身をもって知らせた方がよろしいのかしら?」
メチャクチャ悪い顔で微笑むタマーリン。
「ほ、ほどほどに頼む・・・」
墓穴掘ったと悟ったクロッポが目を逸らす。
「すまん、お前ら」
若い連中の顔を思い出し、心の中で手を合わせたのだった。
「あーん、届かない」
魚のカゴに向かったミケラ達だが、大人でも手がやっと届くくらいの高さがあるので背の低いミケラでは到底手が届くはずはない。
精一杯伸ばしても、やっとカゴの半分くらい。
「よーし」
サクラーノはサクラーノでカゴに体当たりしようとする。
「ダメ!」
とチャトーミが素早く、サクラーノ身体を捕まえて抱え上げる。
「離して、離して」
抱え上げられジタバタしても、地面に足が付いていなければサクラーノでもどうする事が出来ない。
「でも、これじゃわたし達も見えないよね」
背のあまり高くないキマシは勿論、背の高いレッドベルでも無理だった。
「お前ら、おいらの手の上に乗りな」
キャメルが地面に手を置いて、乗るように言ってくれる。
「じゃ、遠慮なく」
ギリが素早くキャメルの掌に飛び乗る。
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