ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 29
「ここってさ、結構暇なんだよ。あたしらはさ、生活の為に商売やっているから忙しいけどさ、ドラゴンさん達は暇を持て余していてさ。なんで、あたしらの頼みを結構聞いてくれるんだ」
ドラゴニュートの頼みを聞く事が、ドラゴン達の暇つぶしになっていると言う事だ。
娯楽の少ない世界では、仕事も娯楽の一種になってしまうのだろう。
「朝、漁に行った父ちゃん達が帰ってくる頃だね」
ドドンラは空を見回す。
「来た来た、帰ってきた」
嬉しそうに声を上げる。
ミケラ達も空を見回す。
「あそこ、あそこに何か飛んでる」
目の良いギリが早速見つけて、指を指す。
ギリが示す方向をみなで見ていると、やがて黒い点が三つ見えてきた。
その点がぐんぐん大きくなって、ドラゴンの形になるまでさほどかからなかった。
「わぁ、ドラゴンだ」
「三つも飛んでる」
ミケラとサクラーノが無邪気に喜ぶ。
ドラゴンはさっき見たばかりなのはずなのに。
「姫様、さっきドラゴン一杯見たばかりだよ」
何故喜んでいるのか不思議に思い、チャトーミが聞く。
「だって飛んでるから」
「飛んでいるの凄い」
先ほど集まっていたドラゴン達は、ミケラ達と一緒に歩いてくれていた。
誰も飛ぼうとしなかったのだ。
「そだね、さっきのドラゴンさん達、誰も飛んでなかったね」
チャトーミは納得する。
「ドラゴン、二本足で歩いてたよね」
「短足でよちよち歩くのは、可愛かったです」
「見た目は怖いけど、あの姿見ちゃうと可愛いと思うな」
キマシ、レッドベル、ギリが納得したように頷き合う。
「でも変ですわね、王国の方に来るドラゴンはみんな四本足で歩いているのですが」
そう、王国の近くに飛来したドラゴン達は、どのドラゴンも四本足で歩いていたのだ。
「おかしいですわね?」
何故だろうとばかりに首を捻るタマーリン。
「それは若いドラゴン達だね」
タマーリンの声が聞こえたのか、ドドンラが疑問に答えてくれた。
「若いドラゴン・・・クロも同じ事を言っていましたわ」
クロは、ドラゴンがこの里から抜け出さないように何かしてあるのに、若いドラゴンが抜け出して困ると嘆いていたのだ。
「クロって誰だか知らないけど、この里からドラゴンが出ないように神龍様が何かしたみたいだね」
ドドンラも頷く。
「シャングリラには危ないから、近寄るなって言ってたよね?」
キマシがクロの言った言葉を口にする。
「キマシにしては良く覚えていたじゃない?」
意外そうな顔でキマシを見るギリ。
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