ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 28
「そうなんだよ、御山の周りに大きな湖が三つ有って、それぞれ獲れる魚が違うから種類は豊富だね」
御山とはシャングリラの事だろう。
世界の始まりの地だけあって、かなり大きい。
周りに湖が三つでは少ないくらいだ。
「まあ、湖が三つも」
タマーリンは驚いて見せたが、実は湖は見た事がない。
王都の周辺には小さい湖と泉があるだけ。
もっと東の方に足を伸ばせばあるが、忍びの里に近いのでタマーリンも行く気にはならない。
それに王都の近くの湖はあと少し小さければ、池と呼ばれてもおかしくない程の小さな湖なので、人気もなく足を運ぶ人も殆どいなかった。
「湖、知ってる」
ミケラが手を上げる。
「わたしは知らない」
サクラーノはちょっと羨ましげにミケラの方を見た。
「クロと会った所だよね?」
虎次郎やチャトーミに聞く。
「うむ」
「そうだよ、クロの足からトゲ抜いて上げた所だよね」
ミケラ達とクロが出会った湖でもある。
「あらそうですの」
その時、タマーリンはまだ仲間になっていなかった。
「湖、見てみたい」
ミケラ達の話を聞いていて湖を見たくなったのだろう、サクラーノが叫ぶ。
「いいですわね、わたくしも見てみたいですわ」
タマーリンも、珍しくそれに同調した。
「湖を見に行くんのかい、あんた達?」
ドドンラが聞いてきた。
「私たちの住んでいる街の近くには大きな湖は有りませんの。漁ができるほど大きい湖なら、一度見てみたいですわ」
小さな湖には漁が出来る程に魚は住んでいないし、もし無理に漁をすればたちどころに取り尽くしてしまう。
こうして魚屋を営めるということは、それに見合うだけの大きい湖という事だ。
「三つともここからは遠いから、歩いて行くのは無理だよ。途中の森も結構深いから、迷子になっちまうしさ」
ドドンラが説明した。
「あら、では漁はどうやって?」
話を聞いた限りでは、とても漁に行けるような雰囲気ではない。
疑問に思うのは当然。
「飛んでいくのさ、ビューンとね」
ドドンラが手でビューンと大きく、弧を描くように手を動かす。
「飛んでいくのですの?ドラゴニュートは飛べますの?」
タマーリンが目を丸くして驚く。
目の前にいるドドンラもエミーイも、翼が無く飛べるようには見えない。
マオやゆいのように、飛ぶ時だけ翼を出せるのかもしれない。
だがドラゴン達が飛ぶ為の翼を生やして歩いていたので、それも違うだろう。
「あたしらは飛べないよ」
ドドンラはガハハハと笑う。
「ドラゴンさん達に頼むのさ」
「ドラゴンに?」
話が見えず、首を傾げるタマーリン。
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