ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 16
「でも、先ほどのあれは何なんだったのでしょう?」
飛んでいった白い球が謎だとばかりに、首を傾げるタマーリン。
「ああ、あれは先ほど皆さんが涙を流したのと同じですよ」
クロには心当たりがあるようだ。
「涙と?」
不思議そうにクロを見上げる。
「はい、普通の方は涙を流しただけで終わるんですが、力のある方はシャングリラから放たれる力に触発されて、時々とんでもない事になるですよ」
言いながら、クロはやれやれとばかりに溜め息をつく。
「力有る者?」
「タマーリンさんは魔力量も魔道力も桁違いですから、タマーリンさんの中の力が触発されてあの球を生み出したんでしょうね」
クロの説明にタマーリン顔をしかめる。
「つまり、ここに居るとまたあれが生じると言う事ですの?」
あんなモノが何度も口から飛び出すなんて、危なくて仕方ない。
「大丈夫です、涙と一緒と言ったでしょ?一度だけです、一度だけ」
クロの言葉にタマーリンはホッとする。
何度も生じるようなら、危なくてミケラの側にいられない。
つまり帰らなければならないのだ。
折角、ミケラと一緒に旅行に来たのにだ。
それは到底タマーリンには受け入れられない事だった。
仕事の為に、血の涙を流してこの旅行を断ったモモエルと同じにはなりたくない。
心の底から思っていた。
「もう、あの球を吐き出す事はないのですね?」
タマーリンが更に念を押す。
「はい、もう大丈夫ですよ」
クロの言葉を聞いて、ニコッと微笑むタマーリン。
「神龍様、その話初めて聞きました」
長も驚いているようだ。
「えっ、長も知っているはずですよ」
驚くクロの言葉に、首を捻る長。
「ミサケーノに散々な目に合わされたでしょ?」
ミサケーノのと言う言葉に、ピクッと反応する長。
「ミサケーノ・・・その名前に心当たりは無いのですが」
しかし、長は本当に心当たりがありませんという表情をする。
「えっ、ミサケーノですよ、ミサケーノ」
クロはそんな長の反応に驚いて、ミサケーノの名前を連呼した。
「?」
それでも長からは、知らないという返事しか返ってこない。
「何故知らないの?」
と思いつつ、クロが顔を上げると、長の側近のドラゴン達が、ダメダメと手を振ったり、腕をバッテンに組んだりしてクロに合図を送って寄越していた。
「・・・」
それで察して、
「知らないのならそうなんでしょうね。お姫様達の宿に案内して下さい」
話題を変える。
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