ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 14
「なんなのあれは」
のぼり旗の字を読んで呆れるギリ。
この世界に温泉宿屋の出迎えなど存在しないので、理解出来ないのは仕方ない。
これはカルチャーギャップと呼べばいいのか?
「凄い、ドラゴンさん一杯だ」
キラキラワクワクの目で見るミケラ。
「うほほほ、あんなに大きいなら体当たりしても大丈夫そう」
不穏な事を考えるサクラーノ。
「いやだいやだ、俺帰る」
ここに来て、まだジタバタ騒ぐチャトーラ。
それぞれの思いを背中に乗せて、クロはドラゴン達の近くに着陸した。
ドラゴン達の中から、ひときわ体格の良い真っ赤なドラゴンがクロの元に進み出てきた。
赤竜とも、レッドドラゴンとも呼ばれるドラゴンだ。
クロは背中のミケラ達を乗せた虹輝障壁を地上に降ろしてから、ミケラ達が初めて会ったドラゴンへと変貌する。
「長、出迎えご苦労様」
レッドドラゴンは、ドラゴン達を束ねるドラゴンだった。
「いえいえ、神龍様こそお役目ご苦労様です」
クロは何かの役目を果たす為に帰ってきたようだ。
「それで、そちらの方々が神龍様のお客様方ですか?」
長はクロの足下にいるミケラ達に視線を移す。
「はいそうです、大切な方達ですからくれぐれも失礼のないように」
クロは長の耳元に口を近づけて、
「あの小さいお二方にはくれぐれも大切に扱って下さいね。間違っても怒らせると、とても怖い目に合いますよ」
意味深な言葉を囁く。
「怖い目?我々ドラゴンが怖がる事など有りませんよ」
長は軽く笑う。
「そうですか、そうならないように祈っていますよ」
クロは更に意味深な事を言って長から離れる。
そして、長の言葉があっさりと覆されるのだった。
「本当にドラゴンばかりですのね」
タマーリンがドラゴン達を見上げる。
「おい、あれたマーリンじゃないか?」
「やばい、本当にタマーリンだ」
「なんでここに来てるんだよ」
タマーリンの姿を見て何匹かのドラゴンが顔を背け、中には足をガクブルさせる者さえいるではないか。
「あら、そこあなた。先日、王都にいらっしゃった方ね」
顔を背けているドラゴンの中に、知り合いを見つけたようだ。
「あ、あの・・・ど、どちら・・・さ、さま、で、で、でしょうか」
知らない振りをしようとしているが、明らかに挙動がおかしい。
「ぼ、ぼ、ぼくは、よ、用事が有るから、こ、これで失礼します」
逃げようとする。
タマーリンの腕がさっと動いた。
「ひぇぇぇぇ、ごめんなさい、ごめんなさい。二度としません」
そのドラゴンは頭を抱えてその場に伏せてしまう。
どうも、最近王都近くに来てタマーリンに酷い目に合ったばかりのドラゴンだったみたいだ。
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