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ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 13

「見えてきましたよ」

 クロの声で、みなは前の方に視線を移す。


 視線の先に、雲を突き抜け威厳に満ちた雰囲気を放つ山の頂きが見えていた。


 その頂きを目にした途端、みなが一応に涙を流す。


「な、なんだ、なんで涙が止まれねえんだ」

 ボロボロと涙を流しながら、それでも山の頂から目が離せないチャトーラ。


 性悪妖精達ですら、

「な、泣いてなんかいない。こ、これは目の汗だから」

 誤魔化そうとするミミ。


「涙が止まらないじゃん、心が温かくなるじゃん」

 焦るシルゥ。


「四露死苦(;.;)」

 泣きながらシャングリラか目が離せないリー、と三者三様だった。


「はい、ミケラ様チーンしましょう」

 タマーリンはミケラの面倒をみて、


「サクラーノ、チーンしよう」

 チャトーミがサクラーノの面倒を見ていた。



「それじゃあ降りますよ」

 クロは高度を落とし、雲の中に突っ込む。

 

 雲の中に突っ込み、シャングリラの姿が視界から消えると、みなの涙が一斉に止まる。


「なんだったんだい、今のは?」

 お妃様が(いぶか)しむと、


「初めてシャングリラを見た方は、皆さんそうなります。一度見たら、もう涙は出ませんから大丈夫ですよ」

 クロが説明してくれた。


「そうなのかい」

「はい、雲を抜ければ判りますよ」

 クロの言葉が終わると同時に雲から抜けた。


 雲の下はどこまでも広がる草原、その先の方に巨大な山裾が広がっていた。

 シャングリラのふもとの部分だろう。


 クロの言葉の通り、シャングリラの山裾を見ても涙が溢れてくる事はもうなかった。


 クロは高度を落とし、ある程度まで高度を落としてから水平飛行に移る。

 地上の景色が後方へと、もの凄い速さで流れていく。


「あれ、何か見える」

 それに気がついたのはギリが一番最初だった。

 流石、元斥候だけの事はある。


「なんだろう?」

 目を懲らす。


「うへ、ドラゴン!」

 実際にドラゴンは見た事はなかったが、子供頃読んだ絵本に出てくるドラゴンそっくりの集団が待ち構えているのが見えたのだ。


「手に、何か持ってる?」

 目を更に懲らして見た。


「のぼり旗?なんでドラゴンがのぼり旗持ってるのさ」

 そう、ドラゴンが手に手にのぼり旗を持ち、盛大に振っているではないか。


 そして、白地ののぼり旗に黒い字で何か書かれているのが見えた。

 のぼり旗に書かれていたのは、


『お帰りなさい、神龍様』

『歓迎、ミケラ様ご一行様』

『おいでませ、ドラゴンの里へ』


 まるで昭和の時代の温泉宿の出迎えのような内容だった。


                       (Copyright2025-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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