ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 11
「で、でも。砦じゃ凄い頑張ってたよね?ね?」
キマシがギリやレッドベルに同意を求める。
タマーリンは初日に、自分の魔力を殆ど使い切ってしまう程の大魔法を使って、魔獣の足止めをしてくれたのだった。
「そうだな、タマーリンさんのお陰で砦の魔術師が随分、楽が出来てたってシルフィーナさんが言っていたし」
「兵士達も充分な休息と修練が積めて、助かったぞ」
ギリもレッドベルもタマーリンを擁護する。
「当然ですわ、砦を抜かれてしまったら王都に被害が出るかもしれないではないですか。ミケラ様が怖い思いをするかもしれないではないですか。ミケラ様の為に、この身が砕けても一匹たりとも通さない覚悟で砦に参りましたのよ」
清々しいまでのミケラ至上主義だった。
「あははは」
真実を知り、苦笑する三人娘達。
「じゃあ、なんでわたし達を拾ってくれたんですか?」
そう、この三人を砦から引き抜いたのはタマーリンなのだ。
「あら、言わなかったかしら?わたくしがあなた達を気に入ったからですわ」
砦で行動を共にして、この三人の事が気に入ってしまったのだ。
あのまま命の危険のある砦に置いておいたら、この三人の内の誰かが命を落としてしまうかもしれない。
そう思ったら、つい引き抜いてしまったのだ。
タマーリンは気に入った相手には優しいし、思入れも強く抱くのだ。
冷静のように見えて、慈愛味に溢れる面も持っている二面性が、タマーリンの魅力でもあった。
ミケラに対しては、溢れすぎてお馬鹿になるのが困りものなのだが。
「南に向かっているのか?」
チャトーラが太陽を見上げながら、どの方向に進んでいるのか確認する。
「南ですか?」
タマーリンは南に何があるか考える。
「シャングリラでしょうか?」
思いついた地名を口にしてみる。
全ての始まりの地、霊峰シャングリラ。
地上の全ての生き物はその地で産まれ、世界に広がったとする神話の一節を思い出したのだ。
神が地上に住まう全ての生き物をシャングリラで想像し、そこから各地に散っていた。
神話が正しければ、全ての地上の生き物の故郷、それがシャングリラ。
「はい、そうですよ」
クロが答えてくれた。
「霊峰シャングリラの麓に、ボクの故郷があります」
シャングリラという言葉に、お妃様も強く関心を示していた。
「シャングリラかい?本当にあったんだね」
目を輝かせる。
「タマンサも来れば良かったのに。あの子、この手の話は好きだからね」
タマンサは元々、吟遊詩人に憧れ、吟遊詩人になりたくて家出をしたのだ。
当然、神話や伝説の類いは大好物。
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