ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 10
虹輝障壁はそのまま、クロの背中に張り付く。
「それでは飛びますよ、いいですか?」
クロが声をかけてきた。
「ああ、やっておくれ」
お妃様が声をかけると、クロが巨大な翼を羽ばたかせた。
たった一回羽ばたいただけで、クロの巨体を雲の上まで運ぶ。
雲の上に出るとそこから水平飛行に移る。
ミケラ達が入っている虹輝障壁もそれに合わせて、地表に水平になるように回転した。
「あら、面白い事をするのね」
タマーリンが少しだけ感心したように微笑む。
「そうだ、前から聞こうと思ったんだけど、いいですか?」
キマシが声をかけてきた。
「あら、何かしら?あなたにしては珍しいですわね」
キマシは感覚でやってしまう派なので、あまりタマーリンとかに質問をする事がない。
どちらかというと、見かねてタマーリンがアドバイスする事が殆どだったのだ。
「えっと、人間の国では魔法の事を魔術と呼ぶし、ケットシーの街じゃ魔法と呼ぶじゃないですか。どう違うのかなと思って」
タマーリンが「良く気がつきました」という表情をする。
「ふふん、それには重大な秘密があるの・・・」
キョロキョロと周りを見回してから。
「誰にも言ってはダメですよ」
声を潜める。
「秘密」
と言う言葉に、ギリとレッドベルもつい聞き耳を立ててしまう。
「いいですか、よく聞いて下さいね。一回しか言いませんから」
タマーリンが意味深な表情でキマシを見つめていた。
「はい」
頷くキマシ。
聞き耳を立てていたギリとレッドベルもゴクリと息を飲む。
「それではお教えしましょう、呼び方が違うだけですわぁ」
これ以上ない爽やかな笑顔で手を広げ高笑いをするタマーリン。
あっけにとられるキマシ、ギリ、レッドベル。
「人間の国では魔術と呼び、ケットシー王国で魔法と呼んでいるだけで、元は同じ魔道ですのよ」
国が別れているので、地域性はあるだろうが、魔法も魔術も元は同じ魔道と呼ばれる魔力を力に変えて行使する術でしかない。
つまり、元は同じ。
タマーリンの意味深な様子からの豹変ぶりに、あっけにとられる三人娘達。
「お前ら、そいつは性格悪いからまともに相手しない方がいいぜ」
側で見ていたチャトーラが一声掛けてきた。
「あら心外ですわねチャトーラ、こんなに誠心誠意頑張っていますのに・・・ヨヨヨ」
大げさな身振りで、タマーリンは膨らんだ袖で涙を拭う。
「タマーリンが誠心誠意頑張るのは、姫様を相手にしてる時だけだろう」
ズバリと核心を突かれ、
「そうですわね、ミケラ様の為ならわたくし、天使にでも悪魔にでもなれますわ」
あっさりと開き直る。
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