ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 8
「これで全部だね、これ以上増える前に出かけるとしよう」
お妃様の合図で、一行は止まっている馬車へと乗り込む。
乗り込む馬車はこの前、タマンサ達が家族旅行に使った豪華仕様の乗合馬車。
椅子の部分にモモエルが新開発した、スプリング入りのクッションが使われ、座り心地が格段に向上している。
「頼むよ、トランスロット」
「うん」
馬車の御者はトランスロットだった。
タレントが発現した日、家に帰ってから家族総出でお祝いをして貰った。
発現が遅くて心配していたタマンサは涙を浮かべて喜んでくれたし、ロレッタは夕食のメニューにお祝いのケーキを追加して祝ってくれたのだ。
家族みなに祝われたことを、トランスロットは一生忘れない。
「最初は、お客に発進していいか聞く。それでいいという返事が来るまで、馬車は動かさない。いいな」
サウが隣でトランスロットの指導をする。
馬車の御者は厩の敷地で何度も練習して、お客を乗せても問題ないまでに上達していた。
これが初めてお客を乗せて、馬車を走らせるのだ。
練習とは違う。
「うん、判った」
返事をした後、トランスロットは真後ろに付いている窓を開き、
「準備出来ましたか?準備が出来たのなら出発します」
と大きな声で聞く。
「お兄ちゃんだ」
「お兄ちゃんだ」
ミケラとサクラーノが窓の元に駆け寄って来た。
「トランスロット、ご苦労さん。こっちの準備は出来てるから、いつでも出してくれていいよ」
お妃様が声をかけてきた。
「はい、それでは出発します」
大きな声でしっかりと返事をするトランスロット。
サウの反対側の隣に座っているゆいが、パチパチと手を叩いた。
タレントが発現してから、ちょっぴり男の子らしくなったトランスロットが嬉しくて仕方ないのだ。
その声を聞いて、お妃様もにんまりとする。
内気だったトランスロットが、しっかりと声を出したことが嬉しいのだった。
なんだかんだ言って、お妃様にとってタマンサは娘のようなモノであり、トランスロットはその娘の子、孫のように思っていたのだから。
「やっ」
トランスロットがしっかりと手綱を振ると、馬が歩き始め馬車が動く。
初めの頃の頼りなさは、すっかりなくなっている。
こうして、ミケラ達の旅は始まったのだった。
とは言え、急ぐ旅でもないので馬車はのんびりと草原の道を東へと進む。
普通の乗合馬車と違い、板バネが使われているので、馬車の中は快適だった。
しかも床には厚い絨毯が敷かれ、座席にはバネ入りのクッションが置かれいるので、居心地はかなり良い。
それぞれが馬車に揺られながら思い思いに過ごしている中、何事も無く東の泉の近くまでやって来た。
「ここで大丈夫ですよ」
クロが御者台の方に声をかけ、馬車はゆっくりと止まる。
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