魔王襲来 その1
草原に闇が生じた。
夜より更に深い闇、生じた瞬間は豆粒より小さかったが、降り注ぐ日の光に抗うが如く大きくなり、大きくなるに従い手が生え足が生え頭が生え遂には見上げるほどの闇の巨人となり草原の草を踏みしめ立つ。
深い闇に覆われた巨人の血の色より赤い二つの眼が開く。
「この世に仇なす勇者を成敗する為、予、ここに爆誕する!」
人の声とは思えぬ、聞いた人間の心の底から恐怖させる声が草原に響き渡る。
「勇者はいずこ」
闇の巨人はゆっくりと首を巡らす。
右を見ても左を見ても見えるのはどこまでも続く風にそよぐ草の海のみ。
闇はしばし考え、
「ふっ、勇者め予から隠れ通せると思うのは甘いぞ」
闇が地獄の底から響くような笑い声を上げた。
「勇者アンテナ」
闇の頭から細い糸状のモノが立ち上がる。
それは周囲を探るように動いていたが、何かを感じ取ったかのようにある方向を指し示して動きを止めた。
「勇者はあちらか」
闇はアンテナの指し示す方へと首を向けると、
「ウィング」
闇が腕を背中に回し勢いよく両側に開くと、背中に闇の翼が生じた。
闇の巨人は翼を使い、宙に舞い上がるとアンテナの示した方角へと飛行を始める。
最初は飛行に馴れず、真っ直ぐ飛ぶのさえ難しい様子であったが徐々に飛行に馴れるに従い飛行速度が上がり、ついには超高速で空を駆け抜けるまでとなった。
その速度があまりにも速く、発生した衝撃波により草原の草が舞い上がり、闇の飛行した後の軌跡となる。
草を巻き上げながら飛ぶ闇は、瞬く間にケットシー王城のある街の見える地点まで来た。
「勇者はあそこか」
闇は一旦空中で止まると、勇者のいる方角を再度確かめ街へと向かって飛んだ。
「おい、なんか黒いモノが飛んでくるぞ」
「また迷いドラゴン?」
街を守る衛兵は近づく闇をのんびりと見守っていた。
その衛兵達の横を闇は超高速で抜け街の中へと飛び込む。
「あれ?ドラゴンじゃなかったな」
「ドラゴンじゃなければ警報出さなくてもいいか」
「そうだな、街にはタマーリン様もおるし虎次郎もおるからな、なんとかなるべ」
「そだな、性格は色々と問題はあるが二人とも強いから、なんとかなるべ」
頷き合うと衛兵達はそのまま街の外の監視に戻る。
街の中に突然や身の巨人が降り立ち、ケットシー達は驚いたがそれ以上に騒ぎもせず遠巻きに見上げるだけだった。
「勇者はいずこにおる?」
闇が尋ねる。
「勇者?ああ、武茶志の事か・・・武茶志ならそこの倉庫で働いてるよ」
ケットシーの一人が倉庫を指差した。
「ありがとう」
闇は教えてくれたケットシーに丁寧に頭を下げ、倉庫に向かって歩き始めた。
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