ケットシー物語 クロ、故郷に帰る 4
「おや皆さん、今日はお揃いでなんですか?」
飲食コーナーで寛いでいる所にクロがやって来た。
お年寄りへの配達の帰りだろう。
倉庫では、足腰の弱ったお年寄りへの御用聞きと配達をしていて、クロが担当となっている。
何故か、クロはお年寄りに人気があるのだ。
「あっクロだ」
クロの顔を見て喜ぶミケラ。
「クロは本当は、こんなに、こんなに、こ~~んなに大きいドラゴンさんなんだよ」
ミケラが、こんなに大きいんだよと目一杯手を広げて、サクラーノに自慢した。
子供にとっては、些細なことでも自慢になるのだ。
「おおっ」
サクラーノが目をキラキラさせて食い付いてくる。
「それほどでも」
照れるクロ。
今いる中で、クロの本体を見た事のあるのはミケラとタマーリンだけ。
クロは神龍であり、本当はこの街より大きいのだけれど、今は人間に変身しているのだった。
全身漆黒でおじさん声なのを除けば、美少年でもある。
「見たい」
サクラーノが叫ぶ。
「見たいと言われても、ここでは」
流石にまずいですよねと、タマーリンの方を見るクロ。
タマーリンはもの凄くいい笑顔でニコと微笑んだだけだが、それで充分。
ダメと言うこと。
小心者のクロが、タマーリンに逆らえるはずもない。
神龍としての威厳など、微塵も持ち合わせていなかった。
「見たい、見たい、見たい」
だが、しかし、サクラーノはしつこかった。
「困りましたね」
街中で変身を解くわけにも行かず、とは言ってサクラーノは引き下がってくれる様子も無い。
「ほらサクラーノ、クロさんが困っているでしょ」
ロレッタが助け船を出す。
「でも、お姉ちゃん」
サクラーノは目から、お願い光線をキラキラと発してロレッタを見上げた。
家の中の事になると口答え不可の鬼軍曹になるロレッタも、家以外の事になると妹のお願い光線には弱い。
困ったようにクロの方を見るロレッタ。
「街中で無理なら、街から出ればよろしいのですわ」
タマーリンが解決策を出す。
「そうですね、この前変身を解いた時も街から随分離れた場所でしたから」
以前、クロが変身を解いたのは、街からかなり離れた東の泉の近くだった。
そこでこの世界に転生してきたばかりの武茶士を見つけて、運動会になったのだ。
神龍の巨体なら、いくら遠くても見えるだろうと思われるかも知れないが、猫の視力は悪い。
特に遠くのモノを見るのは苦手なのだ。
ケットシーも当然、遠くのモノはあまりよく見えない。
遠く離れてしまえば神龍が正体を現しても、気にもしないのがケットシーなのだ。
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