外伝 ーミケラの日 -結ー
「はい、お口を開けて」
ベッドに横たわるミケラの口に、スプーンでスープが流し込まれる。
そのスープを口に含んだ途端、うつろだったミケラの目が見開かれた。
それは長年食べていた、姉のロレッタの味だったから。
「お、お姉ちゃん?」
目の前に姉のロレッタがいた。
「起きられる?」
優しくかけられた言葉に、
「うん」
ミケラが手を伸ばす。
ロレッタはミケラの身体を抱えるようにして起き上がらせる。
ミケラは起き上がると、
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん」
ロレッタにしがみついてワンワンと泣き始めた。
「よしよし」
ロレッタはミケラの頭を撫でながら泣き止むのを待つ。
「お腹空いてない?」
泣き止んだミケラに聞くと、
「空いた」
と答えたので、ワゴンからスープの入ったお皿を持ってくると、
「お姉ちゃん特製のスープだぞ」
スプーンでミケラの口に運ぶ。
「美味しい、お姉ちゃんのスープだ」
家では食事の全てはロレッタの担当。
家庭の味と言えば、タマンサの家ではロレッタの味なのだった。
タマンサも作れなくはないが、主婦失格の腕では家族の評判はすこぶる悪く滅多に作ることはない。
ロレッタの作ったスープを食べてから、ミケラは見る見るうちに元気を取り戻していった。
そして、ミケラにストレスをかけないことも暗黙の了承となったのだ。
「姫様、行ってらっしゃいませ」
お城の門番が、門から出て行くミケラを見送る。
街中で育ったのでお城の中より街の中の方が居心地が良いから、散歩がてらに出て歩くのが日常となっていた。
そもそも、ミケラは影移動が出来る。
お城の中に閉じ込めておくことは不可能なので、諦めるしかない。
いつものように街中を歩いていると、お父さんとその子供が体格の良い男達に囲まれている場面に出くわした。
お城の兵隊さんを目にしていたので、どちらが強いかは直ぐ判った。
そして、お父さんの方は、お城へミケラを送り出した時のお母さんと同じ表情をしている。
「助けなきゃ、お母さんを助けなきゃ」
お母さんと重なったミケラは、助けよと知恵を絞る。
そして、
「助けて」
「助けて」
「助けて」
と影移動で見える範囲の影を移動しまくって、助けを求めたのだ。
ミケラの影移動は、自分の身体が入る大きさがあって目で見えていれば、連続移動が出来るのだった。
ミケラの助けを求める声に街の人達が集まり、お父さんに絡んでいた男達も形勢不利と思ったのか慌てて逃げ出したのだ。
「おう、助かったぜ」
お父さんの方が声をかけてきた。
「兄ちゃん、この子ロレッタの妹の・・・あっ、今はミケラ様だった」
「えっ、ロレッタの・・・」
絡まれていたのはロレッタの幼馴染みのチャトーラ、チャトーミの兄妹。
見かけは親子だが、双子の兄妹なのだ。
ミケラは小さい頃にしか会ったことがなかったので、顔を覚えていなかった。
これがミケラとチャトーラ兄妹との、長い付き合いの最初の一歩。
この時のお礼だと言って、ミケラの散歩にチャトーラ達が付きそうようになってから、少ししてタマンサが倒れた。
ミケラに続けてタマンサまで倒れたとなり、慌てる貴族達。
ミケラのお城への帰還は、貴族達による横やりに王様が抗いきれずに起こった出来事だったのだ。
そしてタマンサとお妃様は、お妃様が自分の子供を預ける程に仲が良い。
そのタマンサが自分達の横やりで倒れたとなれば、戻ってきたお妃様の怒りが自分達に落ちるのは決まったも同然。
王様もそれは同じだった。
なので王宮の全力を使ってタマンサの治療を試みた。
ありとあらゆる治療法、ありとあらゆる魔法を使いタマンサを直そうとしたが、タマンサの病気は良くなることがなかったのだ。
頭を抱える王様と貴族達。
そんな中、タマンサがうわごとのようにミケラの名前を呼ぶというのを聞きつけて、王様がミケラにお見舞いに行かせる事にしたのだ。
ミケラがお見舞いに行くと、どんな治療法でも良くなることがなかったタマンサの具合が良くなったので、頭の硬い貴族達も不承不承ながら月に一回、ミケラが家に帰るのを認めたのだった。
こうしてミケラは月に一回だけ家に帰ることが出来るようになり、子供達の間でその日の事を「ミケラの日」と呼ぶようになったのです。
名前の由来は、普段はミケラ様と呼ばないと大人達に怒られるのですが、その日だけはミケラと呼び捨てにしても怒られないからなのですけど。
後書きです
やっと書けた。
何回も書こうとして全然書けなくて苦しみました。
如何でしたか?
この話を基準として、以前書いた話もぼちぼちと手直ししています。
これがなかなか大変で、昔書いた話を読み直すのって拷問ですよ。
「殺せ、俺をここで殺してくれ」
と言いたくなる時も。
来週から新しい話が始まります、そちらも宜しくお願いします。
また来週(@^^)/~~~
(Copyright2025-© 入沙界南兎)




