外伝 ーミケラの日 -転ー
「約束が違うじゃないの!」
タマンサは憤慨する。
お妃様の、王宮ではなく外でのびのびと育って欲しいという願いを受けてミケラを預かったのだ。
ミケラを自分の子供と受け入れたのだ、怒るのは当然だろう。
しかし、王様から、
「怒るのは判る、予も悪いと思っておる。
じゃがな、あれがそろそろ療養所から帰ってくるのじゃ。
あれに子供を抱かせてやりたいと思ってのう」
と直々に手紙を貰って考え込んでしまう。
あれとはお妃様のことだ。
タマンサだって子供を持つ身だ。
自分の産んだ子供を、その手で抱き締めたいという気持ちは判る。
ましてや、自分の命と引き換えにするつもりで産んだ子供となると・・・
困り果てたタマンサは倉庫の女将さんに相談する。
倉庫の女将さんはこの街の顔役で、モモエルと一緒に自分達の生活を助けてくれていたので、本当の親のように頼りにしていた。
「あんたの気持ちはどうなんだい?」
聞かれて、
「ミケラは返したくない、わたしの子供だもん」
はっきりと答える。
「でも、お妃様のことを考えると・・・」
声が小さくなる。
「あたしからはなんとも言えないね、これはあんたが決めないとダメだよ」
と言い渡されて、タマンサは覚悟を決める。
そう、愛情の深いタマンサは子供から引き剥がされるなんて考えられない。
だから、お妃様から子供を引き剥がすことは出来なかったのだ。
「わたしのお家、ここじゃないの?」
唐突に言われてミケラは戸惑う。
それはそうだろう、物心着く前から育った家だ、唐突にここはお前の家じゃないと言われても理解が追い付かない。
それをなんとか言い含めて、ミケラに納得させる。
ミケラは聞き分けのいい子なのだ。
「わたしがお城に行かないと母さんが困る」
と受け入れたのだった。
ミケラがお城に戻る日、お城から迎えの馬車が来た。
その馬車に素直に乗ったミケラだったが、馬車が動き出した後は馬車の窓にべったりと顔を付けていつまでもお母さんの顔を見ていた。
「お母さんが困るから」
と泣きたいのをじっと我慢して。
部屋に案内され、侍女達に囲まれながらも一人寂しく食事を取る。
その後、寝間着に着替えさせられ一人ベッドに入ったが、いつも一緒に寝ていたサクラーノがいなくてじわっと目に涙が浮かぶ。
「泣いちゃダメ、泣いちゃダメ。お母さんが困るから泣いちゃダメ」
気丈に涙を堪えて目をつむる。
そして、朝の食事の時。
ミケラは食べたモノを全て戻してしまったのだ。
慌てて王専属の医者に診て貰った結果、子供に起こりがちなストレスによる自家中毒と診断される。
そこからミケラは、薄いスープ以外は受け付けなくなってしまう。
スープしか受け付けないミケラは見る間に弱っていった。
困り果てた王様の決断によって、ロレッタが侍女としてミケラに付くことになったのだ。
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