外伝 ーミケラの日 -承ー
唐突にやって来たミケラだったが、一家には福音となった。
あんなに酷かったサクラーノの夜泣きが、ピタリと収まったのだ。
しかも隣で寝ているミケラの手を自分から握りにいって、嬉しそうに笑っている。
今までの夜泣きが、自分の片割れを探し泣き叫んでいたかのようだ。
ミケラが来た次の日の朝、年若く背の高い眼鏡をかけたケットシーがタマンサの家の戸を叩く。
王宮からタマンサの家の面倒を見るために派遣されたモモエルだ。
学校を出たばかりで右も左も判らないモモエルと、良いお母さんだけど主婦失格のタマンサが珍騒動を繰り広げる中、二人はすくすくと育った。
短気で活発なサクラーノ。
おっとりとしていて、どちらかというとドンくさいミケラ。
性格はまるで違うのに、二人は双子のように仲が良かった。
どこに行くのにもいつも二人一緒で、街中でサクラーノに引きずられて歩くミケラの姿がよく見られていた。
「サクラーノちゃん、遊びに行くの?」
街の人が声をかける。
「うん」
元気よく返事をするサクラーノ。
「ミケラちゃんもいってらっしゃい」
「は~~い」
サクラーノに引きずられて通り過ぎるミケラにも手を振る。
「サクラーノ、一人で先行っちゃダメって言ったでしょ」
ロレッタとトランスロットがサクラーノを追いかけてやって来た。
「こんにちは」
街の人に大きな声で挨拶するロレッタ。
「こ、こんにちは・・・」
か細い声で挨拶するトランスロット。
こちらはこちらで対照的な姉弟だった。
「こらサクラーノ、待ちなさいって言っているでしょ」
追いかけていくロレッタ達を見送りながら、
「タマンサの所も大変よね」
と溜め息をつく。
ミケラがお妃の子供だというのは街の人達の殆どが知っていた話なのだ。
サクラーノが生まれてしばらくしてミケラがやって来たので、街の人だって事情を聞きたくなる。
タマンサやモモエルは口を濁したが、ロレッタから話はだだ漏れてしていた。
お喋り好きのロレッタに、秘密と言っても無理な話。
命の危険を冒してミケラを産んだお妃様は、奇跡的に一命は取り留めたが、四年経った今も療養所から出てくることが出来ないでいた。
街の人達はお妃様の心配しながら、すくすく育つミケラを温かく見守ってくれていたのだ。
そんなある日、サクラーノとミケラは同時にタレントが発現した。
四歳でタレントが発現するのも珍しいが、二人同時は奇跡に等しい偶然。
サクラーノのタレントは爆走、ミケラのタレントは影移動。
影移動はケットシーの祖先達が皆持っていた能力だが、人間社会で暮らすようになり人間化が進む中で影移動の能力は失われ、タレントへと変わっていった。
ミケラのタレントは、一種の先祖返りなのだ。
サクラーノのタレントの爆走は名前の通り、ひたすら前へ真っ直ぐ走るタレントだった。
前へひたすら突っ走り、立ち塞がるモノは蹴散らして進む、サクラーノらしいタレント。
発現したばかりの頃は怪我をよくしたが、次第に怪我も減り、五歳になる頃は壁に激突してもケロッしている程になっていた。
二人は仲良し姉妹として、順調にすくすくと育っていった。
それが来るまでは。
そう、それは突然やって来た。
王宮から、ミケラを返せと言ってきたのだ。
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