ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 137
「サウが起きるまで待っている」
トランスロットが言うと、横でゆいも頷く。
「じゃあ、一緒に行きましょう」
サビエラが二人を診療室まで案内する。
キティーはサウと一緒に診療室に戻っていたので、サビエラと一緒に二人が入ってきたのに少し驚く。
「サウが起きるまで待っているって、いいかしら?」
サビエラがキティーに確認を取ると、
「直ぐに目が覚めると思うから、椅子に座って待っていて」
サビエラがサウのベッドの横に椅子を並べて、二人を座らせた。
「そうだゆい、待っている間にサウの手を握って上げると早く目が覚めるわよ」
確かめるようにゆいはトランスロットの方を見て、トランスロットが頷くのを見てからサウの手を握る。
家ではもうこんな様子は見せなくなってきているけれど、家族以外の前ではまだ陰キャの特性が出てしまうゆいだった。
「サウの手をゆいに握るように言ったのはトランスロット?」
「うん。朝、キティーが言っていたこと思いだしたから」
「いい判断だったわ」
誉めるキティー。
「ゆいが手を握ってくれていたから、サウの怪我も殆ど治っていたもの」
サウの怪我は倒れた時に出来た頭のこぶだけだったけど、それもキティーが治療をしようとした時には殆ど直っていたのだ。
「天使って、本当に不思議な存在よね」
ちょっとキラキラした目でゆいを見るキティー。
子供の頃読んだ絵本で、天使に憧れを持っているのだった。
「あれ、ここは?」
やがてサウが目を覚ました。
「よかった、目を開けたよ」
トランスロットがキティーに声をかける。
「馬車で倒れて気を失ったそうよ」
キティーが説明をした。
「馬車で倒れて・・・キティー!そうかここは魔道研か」
何度かキティーに馬の怪我を見て貰った事があるので、キティーの顔は知っていた。
「ここまで運んでくれたのは・・・トランスロットか?」
「うん」
返事をした後にトランスロットはにんまりと笑う。
「それでね、それでね。ボク、タレントが出たんだよ」
嬉しさがこみ上げて、早口に一気にまくし立てる。
「タレントが出たのか、良かったな」
サウは心の底から喜んでくれた。
「で、どんなタレントなんだ?」
「えっとね、馬車の騎士って言ってね・・・」
どんなタレントか説明する。
「そうか、何かを守りたいと思った時に馬車を操るとか・・・今までタレントが出なかったのは、条件が特殊だったからかもな。王都に暮らしていれば馬車なんて早々乗る機会も少ないし、それで何かを守りたい時になんて・・・本当に条件厳しいな」
サウが考え込み、うなり声を上げる。
「サウをキティーの所に連れて行かないとって思った時に出てきた」
トランスロットの説明に、
「やっぱりな」
納得したように頷くサウ。
キティーがサウの手を取って診断魔法をかけてから、
「もう大丈夫。少し休んだら帰っても大丈夫よ」
と問題のない事を伝えてくれる。
「俺は少し休んでから厩に戻るけど、トランスロットは早く帰ってお母さんにタレントが出た事を教えて上げろ。きっと心配しているぞ」
「いいの?」
「ああ、お母さん喜ぶぞ」
「うん、ありがと」
トランスロットは立ち上がるとゆいに手を差し出して、
「いこ」
「うん」
二人は手を取り合って診療室を後にした。
最初はそれほど速くなかったトランスロットの歩が、次第に早くなり大通りに出た頃は走り出していた。
「待って、トランスロット」
ゆいはトランスロットに手を引かれて走る事になったが、走るのは得意ではないので次第にトランスロットの走る速さに足が追い付かなくなり始めた。
「どうしよう、どうしよう」
トランスロットが喜んでいるのを邪魔したくない。
でも、自分の足は限界。
トランスロットの手を離すのもイヤだ。
ゆいは一生懸命考えて、
「そうだ、走らなければいいんだ」
ゆいには翼があるのだ。
翼を開いてトランスロットと手を繫いだまま飛んだ。
トランスロットに手を引かれて飛ぶ天使に、街の人達は一瞬驚いたが、直ぐににこやかな顔で二人を見送る。
それはやがて馬車を駆り草原を疾走する若者と、その隣を共に飛ぶ天使の最初の一ページとなったのだった。
「クロ、故郷に帰る」に続く
後書きです
先週、五千文字ならと言いましたがあっさり六千字超えました。
減らそうと努力したんだよ、最初は五千五百字だったのが減らすのを頑張って六千字超えました。
逆に増えている?
ダイエットと同じで減らそうとすると逆に増えるのは良くある事(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン♪
と言うことで今週は異例の五話投稿になりました。
と言うことでトランスロットの話はここまで、次回は外伝四話入ります。
その後にクロが故郷に帰る話がスタートの予定です。
また来週(@^^)/~~~
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