ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 135
勢いよく走り出した馬の向きを魔道研の方に向けると、もう一度手綱を振るう。
馬の速度が更に増す。
まるで急ぐトランスロットの気持ちがわかっているように、馬は王宮の敷地内を魔道研を目指して疾走した。
サウが見たら、
「こいつ、こんなに速く走れたのか」
と驚くような速さで。
瞬く間に魔道研の前までたどり着くと、馬を止めてトランスロットは魔道研に飛び込む。
「キティー、キティーを呼んで。サウが倒れた」
受付の女性が慌ててトランスロットの所に駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「サウが、サウが馬車の中で倒れて・・・動かないんだ」
話を聞いた受付嬢は急いで受付の中に戻ると、何かの装置に話し掛ける。
「どうしたのトランスロット」
騒ぎを聞きつけてサビエラもやって来た。
「サウが馬車の中で倒れて・・・今、キティーを呼んでもらった」
その場にへたり込んで、説明するトランスロット。
「サウが」
魔道研の外に止めてある馬車に視線を移す。
「ケガ人が出たの?」
キティーが走ってやって来た。
ここまで全力で来たのだろう、激しく息をしている。
「うん、馬車の中。今、ゆいが側にいる」
ゆいが側にいると聞いて、少し安心するキティー。
「あの子がいるなら、慌てなくてもいいわね」
その場で息を整えると、
「選手交代と行きますか」
腕をぐるぐる振り回しながら、馬車に向かった。
「なに、何があったの?」
モモエルもよたよたとやって来た。
「モモエル様、どうしてここに?」
サビエラが聞くと、
「キティーにちょっと体力の補充を・・・」
目が泳ぐモモエル。
「また、キティーに無理を言ったんですか」
睨むサビエラに、
「ちょとよ、ちょっとだけ。今夜も色々と実験があるし・・・」
実験があると、自分の体力にお構いなしに没頭してしまうのが魔道研の研究者なのだ。
それでは大切な研究者が身体を壊してしまうと、王宮からも無茶な研究はしないようにお達しが出ていた。
それに伴い、キティーにも健康を害する場合は回復を断るようにと王様直々の手紙が届いていたのだ。
真面目なキティーは当然、王様の命令を実行しようとしたのだが、研究をしたい研究者達は、あの手この手でキティーに回復させようとするのだった。
魔道研は逆ブラック企業なのだ。
「モモエル様!」
サビエラに睨まれて縮こまるモモエル。
「あっ、トランスロット・・・どうしたの?」
サビエラの足下にへたり込んでいるトランスロットを発見。
チャンスとばかりに話題を振る。
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