ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 134
思わぬ事態に、御者台にいるゆいがオロオロしているのが見えた。
「ボクがしっかりしなくちゃ」
オロオロするゆいを見て、逆に落ち着きを取り戻す。
「でも、どうしよう」
何か有ったら大人を頼れと、タマンサにもロレッタにも何度も言われている。
しかし、頼るべきサウが目の前に倒れていて動かないのだ。
必死になって考えるトランスロット。
ふとサビエラの事が頭に浮かぶ。
今朝、モモエルに抱きつかれて困っていたのを助けてくれたのはサビエラだった。
ここからサビエラのいる魔道研はそれ程離れていない。
馬車で行ってもそんなにかからないだろう。
「そうだ、魔道研にはキティーもいる」
宿屋で倒れたサクラーノの面倒を見てくれたのはキティーだった。
キティーなら、サウの事を助けてくれるはずだ。
「ゆい、来て」
ゆいを呼ぶ。
「な、なに?」
オロオロしながらも、ゆいが荷台の方にやって来た。
「サウの手を握っていて上げて」
その言葉にゆいが不思議そうな顔でトランスロットの方を見る。
「ゆいが手を握って上げると、サウが早く元気になるんだ」
今朝、キティーが言っていた事も思いだしたのだ。
キティーが自分の事を診断した時に、自分に寄り添ってくれていたゆいの方から回復の力が流れ込んでいると言う事を。
「手を握れば良いの?」
「うん」
「判った」
ゆいはサウの手を握る。
心なしか、気を失っているサウの顔が穏やかになったような気がした。
トランスロットは御者台の方へ移動すると手綱を握る。
「サウを助けないと、早く魔道研に行かないと。魔道研でキティーに見て貰わないと」
頭の中で、それだけがぐるぐると回っていた。
唐突に、自分の中で何かが湧き出てくるのを感じた。
「えっ、なに?」
それは待ち望んだタレントの目覚め、遂に発現したのだ。
頭の中に、タレントの名前と使い方が流れ込んでくる。
「馬車の騎士・・・使命を帯びている時、守りたい者がある時に馬車を操作する力が上がる。また、タレント使用時に馬車の馬の能力を完全に引き出す事が出来る」
頭の中に流れてきた事とを確かめるように呟く。
「これならサウを助けられる」
発現したタレントが、サウを助ける事が出来る力だったので、喜ぶトランスロット。
「ゆい、しっかり捕まっていてね」
トランスロットがなにを言っているか判らなかったが、
「うん」
と返事をするゆい。
「いくよ」
トランスロットが手綱を振るった。
「軽い」
さっきまで身体全体を使わないと振るう事が出来なかった手綱が、易々(やすやす)と振る事が出来るではないか。
そして、馬の様子も変わった。
たった一振り手綱を振っただけなのに、馬が勢いよく走り出したのだ。
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