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ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 133

「わぁ、動いた。動いた」

 トランスロットの隣で無邪気に喜ぶゆい。

 トランスロットが操る事で、馬が動いた事が嬉しいのだった。


「よし、今度は止めて見ろ」

 言われてトランスロットは手綱を後ろに引いたが、馬は止まる事なくポクポクと歩き続ける。


「引く力が弱いぞ。身体全体を使って、後ろに引いてみろ」

「うん」

 言われて、トランスロットは体重をかけて手綱を後ろに引いた。

 サウがトランスロットの後ろで支える。


 それでやっと馬があゆみを止める。


「まだ力が弱いから、身体全体で操作するしかないか。大きくなれば力も付いてくるから、気長に行こう」

 サウの言葉に、


「う、うん」

 と小さく返事をするトランスロット。


 自分の体力の無さは知っていたけど、それが馬車の操作にまで影響をするとは知らず、少しショックを受けていた。


「取り敢えず練習有るのみ、努力の積み重ねで上手になるからな」

 意外と脳筋なサウ。


 それから休みを挟みながらトランスロットの馬車の練習は続く。

 練習の甲斐もあり、日が傾きだした頃にはそこそこに馬車を操れるようになっていた。


「だいぶ、上手になったじゃないか」

 まだまだ危なっかしい所はあるが、最初に比べれば上手になっている。

 その進歩に、サウは心の底から喜んだ。


「それじゃあ、一周してから今日はここまでにしよう」

「はーい」

 馬車が最初の頃より上手に操れるようになり、トランスロットも元気よく返事をする。


 サウもトランスロットも気分が良かった。

 そこに油断が生じたのだ。


 普段から馬場には石ころひとつないように手入れをしていたのだが、どこから紛れたのか見逃した石ころがひとつ。


 たまたまその石ころを馬車の車輪が踏んだ。

 自転車なら僅かにハンドルが取られる程度の小さい石ころだったが、トランスロット達の乗っているのは荷運び用の馬車。

 車輪はゴムタイヤでもなければ、馬車にサスペンションなど装備していない。


 石ころを踏んだ衝撃はダイレクトに伝わった。


 そして、油断していたサウは衝撃でバランスを崩して転倒し、馬車の横壁に頭をぶつけて気を失ってしまったのだ。


 荷台からの音に振り向いたトランスロットは、サウが倒れているのを見つける。


「ど、どうしよう」

 パニックになりかけたが、

「馬、馬を止めないと」

 

 馬を止める事を閃き、急いで馬を止める。


 それから荷台の方へと移動して、

「サウ、サウ」

 サウの身体を揺する。


 返事は無い。


                      (Copyright2025-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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